幕開き、めちゃめちゃな感じで多くの役者が登場したので、「これはいいぞ」と思う。
実は、脚本が橋本治なので、昔彼が書いたサイケ歌舞伎『月食』という駄作ミュージカルを見たことがあり、宮本亜門の演出だったので仕方がないとは思ったが、これはどうかなと心配だったのだ。
話は、鶴屋南北の『東海道四谷怪談』の世界を借りたものだが、登場人物はすべて1970年代的になっている。
田宮伊右衛門は、なんとなく生きている半失業者で、浅草の路上でカラ傘を売っている。
そこに娘のお梅に引っ張られてベルボトム・ジーンズのラジオの人気DJの伊藤喜衛門が来る。
この辺の感じは、藤田敏八の映画『妹』みたいだな、と思う。
1幕目は、筋売りなので次第に退屈になり、終わりの方は寝てしまった。
だが、二幕目の伊右衛門浪宅でのお岩の「これが私の顔かいな」と第二のお岩のワーグナーの「ワルキューレ」をバックにした「愛」、さらに隠亡堀での伊右衛門、直助、与茂七らが合唱するバカバカしさはには興奮した。
三角屋敷で、お袖と直助が実は、兄妹で、当時の言葉で言えば畜生道に落ちてしまう、世の不条理。
まるで世の中の奥底を覗き込んだようなリアルさがあるが、彼らをガス爆発で殺してしまうのは、勧善懲悪にしたくない橋本の企みである。
近親相姦のどこが悪いという、反道徳性。
最後、伊右衛門は、お岩に向かって「お前はだれだ」と聞く、
お岩は答える。
「それはお前だ」と。
これは少しシラケた。
1970年代の自分探しだったのか。
確かに、1960年代中頃から1970年代は、自分探しの時代で、それは最後オウム真理教に行き着くのである。
さて、これはあまりにも1970年代的だな、と思い高価なパンフを買うと、この戯曲は、1976年に橋本治が書いたものだという。
だから、「のど自慢」の場面で、「布団屋の息子はバカ息子で、飛行機で自殺した」という歌が出てきたのだ。
これは1976年3月に、当時ロッキード裁判で問題にとなっていた児玉誉士夫の邸宅にセスナ機で飛び込み自殺した、日活の俳優前野霜一郎のことなのだから。
前野は、都内の布団屋の息子で、子役から日活に入り、ニューアクション時代の「野良猫ロック」シリーズでは脇役で出ていた。
その彼が、なぜか児玉誉士夫邸宅に飛行機で飛び込んだのである。
久しぶりの蜷川幸雄の快作に一つだけ文句を言えば、音楽がテープなことで、もし生バンドの演奏だったら、この劇の感動は、3割以上も上がったに違いなく、再演の時は、是非生バンドのライブにして欲しいものである。
シアター・コクーン
コメント
Unknown
蜷川幸雄は日本演劇史、ひいては日本芸能界における犯罪者のひとり。
彼のあの、いきがったハッタリが後世の芸能界をダメにしたと思います。
そう単純に言われてもね
私の周辺の普通の人も「面白い」と言っているので、やはりすごいのではないかと思いますがね。