以前、蜷川が平幹二郎でやった『メディア』では、ほとんど感じなかったが、今回の大竹しのぶで強く感じたのが、わが子を殺す母の悲しみ、苦しみであった。
その場面のモノローグのとき、若い女性の観客のほとんどは泣いていた。私は泣かなかったが。
そもそも、このメディアという狂女のごとき激烈な役は、日本の女優には無理なので、蜷川は男にしたので、そうした女性の視点が以前のには欠けていた。メディアの夫(近藤洋介だった)への怒り、復讐のみだった。
だが、大竹というものすごいパワーの女優によってこの役も出来るようになった。
もっとも、大竹が二人のわが子を殺すのは、この劇では多くは語れないが新しい恋人との愛が始まるからである。
その意味では母親の子殺しは、新しい夫が出来ると前の夫との間の子は邪魔になるので殺すことがある、と一般に言われているが、ここでもそうなのである。
最後、メディアがクレーンで天空に去ると舞台奥の扉が開けられ、劇場裏の通りが見える。
蜷川幸雄の言うことは明確である。
この数千年前のギリシャ悲劇は、今の日本の渋谷の町で行われていることと同じだよ、という若者へのメッセージである。
ともかく大竹はすごい。
もはや、日本に彼女に対抗できる役者が存在しない現在、イチローや松井のようにアメリカに行ってしまうのではないか、と心配する者である。
野球とは違い、1年の内何本かをアメリカでやるという風にすればいいので、是非彼女の世界デビューを期待したいが。
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