新国立劇場ができて20年だそうで、結構見てきて良いの悪いのはあったが、一番時期に合った芝居を見た。
ただ、これは新国立劇場の手柄ではなく、安倍晋三の「国難選挙」の性である。
まさに安倍晋三は、「愚直に政策を訴える」ではなく、彼自身が愚かなのである。
フランスの近代劇の巨匠、ジャン・ジロドーの名作で、ちょうど第一次世界大戦が終わっての約10年後、ドイツではヒットラーが政権についた2年後の1935年の作品である。
ジロドーは、劇作家であるのと同時にフランス政府の外交官でもあり、諸外国との交渉もやっていたので、この劇の趣旨は、外交官としての彼の思い、つまりいずれまた戦争が来るかもしれないが、絶対に阻止すべきだというのがテーマである。
物語は、ギリシャ悲劇のトロイ戦争を借りていて、ギリシャとの戦争が一段落し、トロイに王プリアム・金子由之の息子、王子のエレクトール・鈴木亮平が戻ってくる。
劇の冒頭で王女で姉のアンドロマック・鈴木杏と妹カッサンド・江口のりことが互いに言い合う。
「トロイ戦争は起きない!」「トロイ戦争は起きる!」
どちらが正しいのかは、劇中では決まらないが、戦争は結局起きたのだ。
だから、ここでジロドーが言いたいのは、トロイ戦争は起きないだろう、ではなく「次の戦争(第二次世界大戦になるわけだが)は起こしてはならない」である。
もちろん、残念ながら第二次世界大戦は起き、世界中と人間が破壊される。
ギリシャ神話の世界を借りて、世界への予言と提言を起こしたジロドーはやはりすごいとあらためて思った。
音楽は金子飛鳥で、上手袖でヴァイオリンも重ねる。
劇が始まって30分以上たってから入ってくる観客が数人いた。
昔、東京宝塚劇場ではツー・トップの時、組のファンクラブ同士の争いがあり、対立するトップが舞台に出てくると反対側のファンは退場してしまい、自分がファンのトップが出てくると入場してくる女性たちがいたことを思い出した。
宝塚のファンは本当に信じがたい。
一路真輝のファンなのだろうが、確かに彼女は「なんとかに鶴」のごとき超絶した美しさだった。
その女神は、実は残酷で、神のように冷酷な運命の女性であることがよく分かったことは収穫だった。
新国立劇場・中ホール