成瀬巳喜男生誕100年記念映画『記憶の現場』は、先日亡くなった石井輝男監督の最後のインタビューとしてのみ価値のある作品だろう。
だが、『流れる』で何度も出てくる柳橋の細長い路地が、東宝のオープンセットに建てられたものだとは少々驚いた。
助監督だった故・須川栄三によれば、成瀬はそこをブルトーザーが横切ることを要求し、実際に持ってきたが、地面の二重(舞台で使う木製の台、6尺・3尺の大きさ)が重量に耐えず壊れたそうだ。
路地の地面も作ったものだったのだ。
同様に、『浮雲』の鉄製の大きな残骸だけが残っている闇市の場面もセットだった。『浮雲』は、すでに昭和30年なので、もう終戦直後の情景はなく、再現が大変だったと本で読んだ。