先日、フィルムセンターのテクニカラー特集でのアンドレ・カイヤット監督の『眼には眼を』について書いたが、筋書きを読んで、「これは」と思った方もあるに違いない。
その通りで、映画『眼には眼を』は、松本清張の小説『霧の旗』の元になった映画なのである。
それは、私が勝手に言っていることではなく、どこの本だかは忘れたが、松本清張自身がはっきりとヒントを得た書いていることなのである。
事実、私は今回初めて『眼には眼を』見たのだが、松本清張は『霧の旗』を非常にうまく書換えていると思う。
一度は相手に対して、あまり大きな意味もなく手助けをすることをしなかった者が、今度はその相手から復讐を受けるというのは、なかなか面白い物語である。
松本清張には、このタイプの小説が他にもあり、『黒い画集・あるサラリーマンの証言』も、まじめなサラリーマンの主人公には実は愛人がいる。
ある夜、愛人のアパートに通うため知人に会ってしまう。
だが、そのことを隠すために、裁判になったとき、知人には会っていませんと彼は証言する。
すると、今度は、そのニセ証言のために、今度は自分が無実の罪に落ちるという皮肉な話である。
このように多くの文学作品なので、外国文学を元にして小説を書く事は非常に多く、特に大衆文学では多い。
大仏次郎の『鞍馬天狗』は、『紅はこべ』を元にしているし、川口松太郎の『鶴八鶴次郎』は、サイレント映画『ボレロ』がもとねただそうだ。
こうした大衆文化においては、ある作品からヒントを得て作者が新しい作品を創造することはいくらでもあることで、否定されることではまったくない。
よく考えれば、シュエークスピアの劇も、すべて元の話があったはずである。
だからといって彼の創造性の素晴らしさを否定することにはならないのは当然である。