山中貞雄を中心とした京都の脚本家の集団「梶原金八」の作品の一つで、前年に山中貞雄が中国で死んだため、追悼作品として1939年10月に東宝京都で作られたもの。
幕末の京都、新撰組や長州などの勤皇派らの武闘派が町中を跳梁跋扈している。
右は河原崎長十郎、左は河野秋武(山崎進蔵)
だが、そんな戦闘は京都の庶民には関係ないよ、というのがこの映画の主張である。
賀茂の河原では新撰組が戦闘訓練をしていて、汚れた衣服を川で洗濯している下級組員の加東大介(市川莚司)を見て、中村梅之助は洗濯業を思いつく。
梅之助の家は、老舗旅館の大原屋だが、父親は、将棋にしか興味がなく、家業は傾きかけている。
滞在しているのは絵描きの武士・河原崎長十郎のみであり、長女で芸者の山田五十鈴は、彼に秘かに恋心を抱いている。
次女が高峰秀子で、新撰組の下士・市川扇升と恋仲だっただが、彼は池田屋事件で死ぬことになる。
反して殷賑を極めているのが池田屋で、諸国の藩士が多数宿泊している。
祇園祭の夜、勤王派の連中が事を起こすことを密偵の報告で察知した新撰組は、池田屋に踏む込み、池田屋事件になる。
河原崎長十郎は、江戸に行き、大原屋をはじめ、京の人々は、いつものように生きている。
監督は、梶原金八の一員だった萩原遼だが、あまりメリハリがなく内容的にもよく分からないところもある。
萩原は、戦後は『新諸国物語』をヒットさせて東映の興隆に貢献したが、1960年代にはクビになり、ピンク映画も作るようになる。
「その前夜」は、言うまでもなく明治維新前夜のことだが、これが公開されたのは、1939年10月で、皮肉にも太平洋戦争の前夜になるのであった。
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