『女の一生』

引き続き野村芳太郎特集、1966年の『女の一生』
森本薫の戯曲ではなく、フランスのモーパッサンの小説を基にしたもので、野村の他、山田洋次、森崎東との共同脚本。



戦後の昭和21年から始まり、結核で療養所に3年間いた岩下志麻が、信州のお屋敷に戻ってくる。
元は大地主だったらしく、当主の宇野重吉と長岡輝子夫妻は、信州ではなく、東京麻布に住んでいる。
言ってみれば不在地主である。
そこに、死んだ息子の戦友の栗原旭がやってくる。
彼は、ひと夏を過ごして東京に戻ってゆくが、宇野の知人を介して結婚を申し込んで来て、
岩下も、「あの人が好きです」と無事結婚式も盛大に行われる。
だが、1年後、岩下とは、乳兄弟で、姉妹のように仲良く育ってきた女中の左幸子が妊娠していることが分かる。
ある夜、岩下は、栗原が女中部屋で左を抱こうとしている姿を目撃してしまう。
左は、実家の近くの百姓家で結婚されることになり、岩下も無事男の子を産む。
子供ができても、栗原旭の女遊びは止まず、発電所長高原駿郎の妻小川真由美とできてしまい、二人は高原に猟銃で殺され、高原も自殺する。
岩下の長男田村正和は、東京で不良高校生になり、自動車事故を起こしてしまう。
宇野も死に、家の当主になった岩下の最後の頼みの綱は、田村だったが、新宿の下宿に行くと、キャバレーの女左時枝がいる。
そこに、事態を心配した左幸子も来るに当たっては、大爆笑。左幸子は、時枝に向かって言う、
「あんた誰よ!」
「楽屋おち」だが、大いに笑えた。
結局、左時枝は、子供を産んで死んでしまい、財産をついには失った岩下は、左の家に同居させてもらい、そこに田村親子も来るところでエンドマーク。
左幸子は、岩下志麻に言う。
「世の中にはいいことも、悪いこともあるが、生きていればそれでうれしいことがあるのでは」
これは、まさに清濁併せ飲む野村芳太郎監督の信条だろう。
別の見方をすれば、岩下志麻の一生は、左幸子・時枝姉妹との戦いの一生だったとも言えるかもしれないが、やはり左幸子の演技が凄い。
家の番頭で東宝作品が多い瀬良明さん、左を女中に斡旋した女衒のごとき男で山本幸栄さんが出ていて、うれしくなる。
こういう地味な脇役が、私は大好きなのである。

もう1本の『素敵な今晩わ』は、公開時に予告編で見て、こういう夢オチ映画は嫌いなので見て来なかったが、やはり途中で寝てしまう。つまらない。
シネマヴェーラ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. なご壱 より:

    山田洋次
    矢野誠一の新刊「劇場経由酒場行き」の中で山田洋次嫌いの矢野が森本の戯曲を山田が演出した舞台「女の一生」だけは褒めていましたが、昔 山田はシナリオを書いていたのですね。

  2. むしろ脚本家として認められたのでは
    山田洋次は、助監督としてはさして優秀ではなかったと野村芳太郎は言っていたと思う。脚本家としては、早い時期から野村監督に認められて、『あの橋のたもとで』などは、山田がほとんどしゃかりきになって野村に書かされたそうです。

    野村芳太郎の下からは、山田洋次、森崎東、大島渚と3人も出ているのですから、野村芳太郎はすごいと言えますね。

    矢野誠一は、以前から好きな人でしたが、彼も山田洋次が嫌いとは、わが意を得たりですね。

  3. 名無し より:

    栗塚旭
    伝説の土方歳三俳優の女ったらしぶり
    東映の新選組関係しか知らない人が見たら凄く違和感を抱くでしょうね

  4. まじめな人だと思いますが
    栗塚旭は、京都にあった劇団くるみ座の出身で、まじめな人だと思います。
    くるみ座は、多くの映画に出ておられる毛利菊枝さんが代表でした。溝口健二の『山椒太夫』の巫女で、一家を人買いに売り飛ばしてしまう悪人が印象的ですね。