デジタル・リーマスター版はいかに

市川雷蔵祭の『新。平家物語』を見に行ったのは、デジタル・リマスターで画面がどう変わるか見るためであり、作品ではない。この映画は、監督・溝口健二の晩年の作品で、失敗作であるとされている。並木座やテレビで見て、時代考証やセットの豪壮さ、大群衆シーンとそれをクレーン移動で撮った撮影はすごいが(ゴダールはこんな撮影は出来ないはずだと言って映写室でフィルムを確認したそうだが、宮川一夫はクレーン車を乗り移って撮っていた)、中身は溝口が苦手な貴族の時代劇であり、感興に乏しいものである。
結果は、確かに画面の肌理の細かさはすごい。また、全体に色彩が淡く、室内や夜間撮影ではぎりぎりまで暗く照明を絞っていたことが分かった。

要は昔の、電気もランプもない時代の照明と色にしているのである。
最近、時代劇を見て気になるのが、この色と照明で、化学染料のペンキのような極彩色の衣装を時代劇の人物が着ているとそれだけでがっかりとしてしまうが、ここではきちんと極めて淡い草木染のような衣装になっていた。
さすが大映のスタッフである。また、早坂文雄の邦楽を基調とした音楽もいい。
そして、なにより良いのは、石黒達也、香川良介、菅井一郎、沢村国太郎等の個性のある脇役が出ていることである。昔の日本映画を見てすごいと思うのは、そうした脇役の豊かさである。

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