『アグネス・ラムのいた時代』 長友健二 中公新書

アグネス・ラムと言っても、もう知らない人の方が多いに違いない。
大人気の水着アイドルで、多分いわゆる巨乳アイドルの元祖になるのだろう。
最初は、エメロンのCMだったそうだが、すぐに水着が男性誌で人気になり、なにしろ東映が映画『太陽の恋人』を作ったくらいなのだから。さすがに私も見ていないが。

私は、彼女のようなタイプは好きではなかったので、お世話にはならなかったが、お世話になった若い男性は多いにちがいない。
彼女もそうだが、リンゴ・ヌードで有名になった麻田奈美も、要は子供っぽい顔に巨乳というもので、どこか男が自由に出来そうな気がするので人気になるのだろう。

この本は、彼女たち、モデル、歌手、タレント等を撮った写真家の長友健二の回想で、彼は自分のことを「大衆写真家」と称していたそうだが、正しいと思う。
宮崎から上京して写真家になった彼は、全盛時代の日活撮影所に出入りし、石原裕次郎、小林旭とも親しく、赤木圭一郎が事故死した時には、近くのスタジオにいたとのこと。
赤木は、演技は上手くはないが味のある役者で、もう少し生きていれば、同じく車の事故で死んだ松竹の高橋貞二のような良い俳優になったと思う。まことに残念なことである。

こうした縁から、日活がポルノに転向した後も、カレンダーを撮影しいたそうだ。
中では、川村真樹とのことが興味深い。彼女のヌードを『平凡パンチ』のヌードで撮影したことから、監督の藤田敏八に紹介して、彼女は映画『八月はエロスの匂い』の主演に決まる。
ところが撮影が始まる最後の最後まで藤田は、川村の起用に疑問を持っていて迷いに迷っていたというのである。
藤田の優柔不断は有名だが、そうした曖昧さが、逆に藤田作品に不思議なリアリティを与えているのだと思う。

私は以前から、藤田敏八=『ゴドーを待ちながら』説である。
ベケットの『ゴドーを待ちながら』は、ご承知のように二人の男が、無意味な会話を繰り広げていて時間をつぶしている。そして急に終わりが来る。
これは、いつもとりとめのない筋で、ウロウロした末にいきなり破局が来る藤田作品の本質と同じだと思っている。
アイドル時代になってからの歌手たちの素顔という興味深い話も沢山出てくる本である。

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