マキノ雅弘にこんな作品があるなんて知らなかった。
1952年、新東宝と東京プロの共同製作作品で佐分利信と木暮三千代の主演。
東京プロというのは俳優ブローカーと言われた星野和平が作ったもので、新東宝作品の他、日活の製作再開にも関係していた当時の有名人。
話は、雪山での事件と木暮の嫁ぎ先の女子高校とのことだが、この名が貞淑女学院だから笑える。
山スキーに出た木暮実千代と田崎潤は、吹雪で山小屋に篭ることになるが、二人は又従兄弟で、幼い頃から兄妹同然に育ってきたとのこと。
麓では、遭難を心配しているが、山小屋に不明の男佐分利信が入ってきて、遭難時の対応を教える。
いくつかあるが、最後は冷えた身体を温めるために、互いに肌と肌を合わせれるのが最上の方法と教え、最後に二人は行い、無事助かるが、佐分利はいなくなってしまう。
麓で真相を話すと、田崎の恋人が学院の幹部に、木暮と田崎の行為を誇張して伝えてしまう。
学院の長が女性で、英百合子で、威厳のある姿が美しい。息子で木暮の夫は田中春男で、優柔不断で母親に頭の上がらない男。
木暮の兄が医者の江川宇礼雄で、実は佐分利の同級生だが、木暮とはすれ違いになり、なかなか結ばれない。
ともかく、この時代の日本の男の常として、男からは求婚しないので、話は進まず非常にじれったいが、それがマキノ流の作劇術。
田崎が住んでいるのが、斎藤達夫と飯田蝶子のやっている高級下宿屋で、ここには成人の男女が住んでいるが、今で言えばシェアハウスになるのだろうか。
英の家を追い出された木暮実千代が、ここに田崎と来て、夕食に「おめでとう」と言われるところは、まさにマキノ節で、平民主義である。
マキノのイデオロギーによれば、必ず平民は正しく、金持ちは貪欲で不正で、その意味では城戸四郎の松竹とも同じである。
もちろん、最後は木暮実千代と佐分利信が雪山で結ばれて終わる。
マキノ雅弘の本を読んでも少しも書いていないので、これはマキノ映画というよりも、小国英雄映画というべきかも知れない。
音楽は鈴木静一で、いつもの抒情的なメロディーが良い。
シネマヴェーラ渋谷