岩下志麻主演で、1963年松竹が宮崎で、宮崎交通のバスガイドを主人公とした映画である。
バスの女性車掌映画は昔からあり、高峰秀子には『秀子の車掌さん』があり、上原謙主演の『ありがとうさん』には桑野通子が出ているし、倍賞千恵子も佐田啓二との映画『雲がちぎれる時』で車掌をしている。
また、バスガイドは非常に人気のあった職種で、岡田則夫さんのコレクションでは、戦前から観光地のバスガイドのSP盤があり、かなり売れていたそうだ。
なかなか旅行に行けなかったので、レコードでその代わりをしたわけで、今の旅番組と同じである。
これは、宮崎空港に全国バスガイドコンクールに岩下の姉の小畠絹代が1位になって凱旋したところから始まるのは、小林旭の『渡り鳥シリーズ』のような大観衆。
歓迎会の席で、2位になった牧紀子との対立が描かれ、さらにそれはホテルの職員で、郷土史を研究している吉田輝男をめぐっての争いでもある。
何事にも積極的な牧紀子に対してすべてに控えめな小畠。この辺は役者へのあてがきだろう、良く描かれている。
岩下の積極的な助力もあり、吉田は小畠と結婚するが、なぜか悲しげな岩下志麻。本当は彼女も吉田が好きだったので、そのことをホテルの不良従業員の津川雅彦が言うなど、構成もさすがに久板栄二郎で、上手くできている。
小畠は、乳がんで死んでしまい、入院の隙に吉田が岩下を求めようとする挿話もあるが、最後は岩下は、東京に行って新しい職場を探すと言うところでエンド。
その伏線として、社から選ばれて岩下が上京して研修を受け、世の中に目覚めると言うのがあり、その中で宮崎から去った牧紀子に再会する。
彼女はジーパン姿で、横浜港でチェッカーをしていて、すでに内藤武敏と結婚している。
五所平之助は、小津とほぼ同じ時代の監督で、「演出は、台詞を言うまでが大事、そこまでにどうやって無音で感情を表現させるかが大事だ」との名言を残している。
その通りに演出しているのはさすがである。
彼は弱いもの味方の典型で、戦後の東宝ストライキの時は、共産党とは全く無縁の自由人だったが、終始組合側に立ち、有名なスト解除の時の撮影所からの退場の時は、その先頭に立ってスクラムを組んだのである。
それを見た小津安二郎は、「そこまでやらなくてもいいじゃないか」と言ったそうだが、小津も十分に組合側を理解していたのである。
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