『八百万石に挑む男』

ラピュタの中川信夫特集、彼は中学卒業後、マキノプロに入り、その後、市川歌右衛門プロ、東宝、そして戦時中は中国の中華電影にいた後帰国した。

戦後も、東宝、新東宝、東映等で多くの作品を作った娯楽作品の職人的監督だが、抒情的な描写も得意で、言ってみればもう一人の山中貞雄といった感じのある監督だったともいえるのではないかと私は思う。ある意味で、昔の映画青年という感じだった。

                   

『八百万石に挑む男』は、講談ねたの「徳川天一坊」だが、脚本が橋本忍なので、非常に重厚な作品になっている。

市川歌右衛門が、山内伊賀亮で、適役だが大半が彼の長広舌の台詞で、非常に上手いが映画というよりも、よく言えば真山青果の芝居のような演説映画である。

ここでは伊賀亮は、元関白九条家の用人になっており、徳川吉宗の治下で驕り昂ぶる徳川政権へ一泡吹かせてやりたいという気持ちからの天一坊騒ぎとなっている。

また、水島道太郎や中谷昇ら、最初に中村賀津雄の天一坊の一味を押さえて、市川歌右衛門の山内伊賀亮が、大いに宣伝し、まるで宗教団体のように寄進を集めてことを大きくさせるのも非常に面白い。この辺は、映画『いろはにほへと』でも新興宗教団体の仕組みを描いた橋本忍のアイディアなのだろうと思う。

中村賀津雄の天一坊は、もともとは自分も吉宗のご落胤とは思っていず天一坊を演じていたが、最後で幼年期に寺にいた小坊主仲間の河原崎長一郎から、本当に吉宗の息子であることが明かされる悲劇も上手くできている。

徳大寺伸の吉宗は、「会っても良い」と思っているが、知恵伊豆の山村聰に猛反対される。

理由は、徳川政権への怨嗟を引き起こすというもので、手下の大岡越前(河原崎長十郎)に処断させる。

最後までチャンバラシーンがなく、その意味では珍しい時代劇で、少々肩が凝ったが、演説大会が好きなので大変面白かった。

『三四郎』は、主人公の三四郎は山田真二で、熊本から上京してきて東京の新風俗を体験する。女義太夫、オイチの薬売り、救世軍の宣伝隊、牛鍋屋、団子坂の菊人形などなど。漱石も随分と明治の新風俗を巧みに取り入れていると感心した。

三四郎を惑わすインテリ美女は八千草薫、絵を描く女性は岩崎加根子で、八千草は高級官吏のような平田昭彦と結婚してしまい、三四郎の初恋は敗れる。だが、この八千草と岩崎は配役としては逆のように思えたが、スターとしての格からは仕方のないところだろう。

もう1本、新東宝の『真田十勇士総進軍』も見たが、これは非常な低予算だが、初歩的な特撮が楽しい映画だった。丹波哲郎が悪役で笑えた。

阿佐ヶ谷ラピュタ

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