『小津安二郎の悔恨』の書評が、『レコードコレクターズ』の安田謙一さんに続き、神奈川新聞の日曜日の書評欄に出た。
(服)となっているので、服部宏さんだろう。そして、『東京物語』の原節子の異性の存在と『風の中の雌鶏』の解釈が驚きと書かれていた。
原節子が演じた平山紀子については、すでに書いたので、『風の中の雌鶏』について書く。
これは1946年に中国から帰国した小津安二郎が1947年に作った戦後2本目の作品である。
筋は、夫佐野周二が戦争に出征してまだ戻って来ない時、子供の病気のため、売春(実際は相手の不能でやっていないのだが)を妻の田中絹代がしてしまう。
それをつい夫に言ってしまうと、佐野は妻を許すことができない。
最後、夫への許しを懇願した妻を、夫は振り払うようにしたため、田中の妻は、二階の階段から転げ落ちてしまう。
このシーンは、アクロバットの女性を使って撮影されたそうだが、その時佐野は、すぐに田中を助けには行かず、じっと考え込んでいる。
これを今上映して、若い女性に聞くと、「すぐに助けに階段を下りて行かないのは、ひどい男だ」と言われるそうだ。
たしかにその通りだが、この作品で小津が描きたかったのは、「妻の不貞を夫が許せるか」ではないのだ。
それは、「この妻に行ったような残虐行為を、俺たちは戦場で行ってきたのではないのか」という小津の戦争体験への強い反省なのである。