先日、あるところで電話していると、「指田さんですか」と聞かれ、
「本読みました、非常に面白かったです。小津の『非常線の女』には驚きました」とも言われた。
『非常線の女』は、戦後の「紀子三部作」などとはまったく異なるモダニズムで非常に驚いてしまうのである。
だが、この1933年の作品のあと、小津はモダニズムを放棄してしまうのである。
戦後の『東京物語』等が小津の頂点だとすることに異存はないが、それは戦前のモダニズムなどの彷徨を経た後の結果なのである。
それを知らなくては、小津安二郎の正しい全体像は見えてこないのである。