作家の佐木隆三が死んだ、78歳。
彼の作品では、やはり『復讐するには我にあり』がすごい。上下2冊の本だったが、読み始めて確か1日で読んでしまった。
連続殺人魔と言われた西口某の犯行を記述したもので、1964年高校2年の時で、クラスに西口浩という男がいたので、お笑いになった。
因みに西口君は、高校時代から学会員だったが、東大を出て創価学会本部に入り、副会長にまでなったが、50代で若死にしてしまった。
週刊新潮には、仏罰だと書かれたそうだ。
映画化は、黒木和雄、藤田敏八らが争ったが、結局今村昌平が監督することになり、松竹で公開されたが、今村昌平の後期の作品としては最高だと思う。
緒形拳が演じた主人公役が傑作で、彼は、その相手、場面ごとに本当にその違う人間に完全になってしまい、相手を騙し、最後は殺害してしまう。
こういう人間は、いわゆる多重人格なのだそうだが、これほど上手く表現した映画は他にないと思う。
その他、三国連太郎、小川真由美、清川虹子、都蝶々らの役者も最高で、彼らの演技合戦をみるだけでも価値がある。
もっとも、今村昌平は、こうした役者のすごいエゴイズムが嫌になり、その後劇映画を長い間撮れなくなってしまうのだが。
佐木隆三の経歴の中で、「新日本文学賞」受賞というのがあり、これも昔の話である。
言うまでもなく新日本文学会が表彰したもので、この雑誌は多くの労働者出進の作家を送り出したが、中では佐木隆三が最高で、意外にも日活がロマンポルノの原作もある泉大八も、「新日本文学賞」を受賞している。
佐木隆三の裁判をもとにした諸作品を読むとそれぞれが非常に面白いが、
それは彼の「どのような人間にも奥深い、非常に不可思議な人生が存在している」という人間への深い洞察だと思う。
ご冥福をお祈りする。