テレビでは見たことがあるが、映画館では見ていないので、『大阪の女』の前に見る。
1941年12月に公開されたマキノ雅弘監督作品で、主演は長谷川一夫と古川ロッパ、講談ネタの土生玄石である。
歌舞伎の三世中村歌右衛門は人気沸騰で、関西から江戸にやってくるが、途中で医者のロッパは、長谷川の歌右衛門が眼病であることを見抜く。
二人の間に一悶着あるが、結局ロッパが長谷川の目を手術し、長谷川は目が明き、無事江戸の中村座の舞台に立つ。
ところがロッパは金を受け取らない。この辺の頑迷さ自分勝手さは、よくロッパの性格に合っていて、脚本、監督はさすがに上手い。
そして、治療をしても一切金を受け取らないので、家は貧窮し、ついにロッパは水野出羽上に仕えることになるが、その座敷で水野から
「踊れ」と言われるが、「俺は踊らない代わりに歌右衛門を呼ぶ」と言い、中村座に手紙を持っていかせる。
芝居の途中だったが、長谷川は劇を中断してロッパの座敷に駆けつけて、踊る。
さすがの水野も折れて、「中村座に総見だ!」と全員が歌右衛門の芝居を桟敷で見る。
憎々しい水野は丸山定夫で、さすがに上手い。幇間のように座敷で踊る医者は深見泰三で、水野部下には嵯峨善兵衛も見える。
くさいと言えば、非常にくさい筋書きだが、やはり演出は上手い。特に長谷川一夫を、『妹背山女庭訓』、お座敷での踊り、最後は『保名』と3回見せるサービスもさすがである。
公開された1941年12月30日は、太平洋戦争の初期であり、まだ日本中が初戦の勝利に浮かれている時代だった。
阿佐ヶ谷ラピュタ