『黒幕』

1966年に創映という会社が作り、松竹で配給された、450本以上という世界中で一番多くの作品を撮ったと言われる小林悟監督の映画。
話は、製薬会社の営業マンの、二人の男女のプロパー天知茂と野川由美子の活躍を描くもの。
因みに、このプロパーと言うのは、固有という意味ではなく、プロパガンディスト、つまり宣伝員という意味である。

大阪と東京の二大製薬会社の精力剤をめぐる争いらしいが、大阪でその精力剤を製造しているのが殿山泰治で、乳鉢を摺こぎですっているというのだから、この映画のように超零細企業にしか見えない。

ともかく、ピンクの小林悟なので、モノ・クロで、撮影はほとんどロケ、画面は貧弱で、照明もほとんど使っていない。
ときどき思い出したように繰り返されるアクション・シーンは、暗くてよく動きが見えず、どちらが勝ったのも、よくわからない。
全体としては、ピンク映画のセックス・シーンの代わりにアクションが挿入されるという感じであり、ひどく緊張感のない運びである。
最後、原作者で、悪玉の一人だった佐賀潜が出てきて、悪事を自白し、「佐賀が黒幕だ」ということで終わる。

思うに、この映画は、小説家の佐賀潜を騙し言いくるめて映画に出演させ、金も出させてできた作品ではないだろうか。
白坂依志夫の本によれば、製作者の篠ノ井公平というのは、相当に問題のあるプロデューサーだったらしいが、彼がどこかで佐賀潜と知り合い、佐賀に資金を出させて、新東宝時代に旧知だった小林悟、天知茂、そして脇役の高宮敬二たちで、映画を安く作って松竹に売ったものではないかと思う。

だが、この後、篠ノ井公平は、羽仁進監督の『愛奴』を作り、末期の日活でも数本のヤクザ映画を作っている。
不思議な人物というべきだろう。
この程度のものも番線上で公開せざるを得なかったのだから、松竹の製作能力の低下はひどかったのだと言うべきである。
阿佐ヶ谷ラピュタ

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