野際陽子を最初に見たのは、TBSの『女性専科』で、知的できれいな人だなと思っていた。
この『女性専科』は、テーマソングが現代詩人の木原孝一で、かなりシャレた番組だった。
その後、女優になったが、初期には非常にいい映画に出ている。
加藤泰の『風の武士』、井上昭の『陸軍中野学校・密命』、マキノ正博の『日本侠客電伝・決闘神田祭』である。
特に『風の武士』は彼女は主演ではないが、ある意味で青春映画の名作だったと思う。
彼女は知的な女優と思われているが、演技はかなり熱演型らしく、マキノ正博は、
「本当に役に入り込んでしまい、泣き出して止まらなくなって驚いた」と書いている。
マキノや伊藤大輔などの、時代劇や歌舞伎の演技は、型であり、心は関係ないので、マキノには驚きだったのだろう。もともと、彼女は大学時代は演劇部だったので、新劇的な演技だったのだと思う。
対して、日本の伝統劇の演技は、型であり踊りで、最終的には振付なので、内部の心は無関係なのである。
野際陽子の出演映画で興味深いのは、恩知日出夫監督の『恋の夏』である。
これは小川知子と、フランスからわざわざ招いた当時大人気のルノ・ベルレーの恋愛劇なのだが、ここで野際は
「日本の女の子って、どうしてこうも外人の男に弱いのかしら」と言う。
自分はどうなのだと思うが、野際は外人とは無関係だったようなので、正しい台詞なのだろう。
個性的な女優の冥福を祈る。