昭和21年4月に作られた溝口健二監督の民主主義宣伝映画。
脚本野田高伍・新藤兼人、主演田中絹代。
「米寄こせデモ」が行われ、「反動吉田内閣打倒!」が叫ばれるなど、戦後最も左翼勢力が強かった時代の作品。
溝口もこんなものを作っていたと驚くが、実は溝口は死ぬまで「日本はいずれ共産化、社会主義化する」と信じていたのだ。
『山椒太夫』の厨子王の奴婢への解放演説など典型であり、遺作『赤線地帯』でも、「こういう不幸な女性は社会主義社会にしないとなくならない」と言っているように見える。
弁護士田中絹代が、義兄で反動的な検事松本克平の卑怯な言動に敢然と戦う映画。
松本からは、経済的援助を受けた過去が田中にはあり、また自分の恋人左翼学者徳大寺伸を逮捕拷問した相手でもある。
左翼新劇人で逮捕、投獄されたこともある松本が反動検事を演じるのは実に皮肉。
映画の最後が、検察、弁護双方の弁論合戦の長台詞になるので、台詞の上手な松本にしたのだろう。
まだ、旧刑事訴訟法下なので、検事は裁判官と同じく法廷の上席にいて、被告、弁護士を上から見下ろしている。
戦前の日本の裁判はこうだったのか、と分かった。
『滝の白糸』もそうだったね。
田中の姉で松本の妻が桑野通子で、これが最後の作品。
この後死んだそうだ。
戦後民主主義映画も、松竹ではメロドラマになるという会社の色を証明する映画。
田中絹代が弁護士のインテリ役をやるのは変だが、結構サマになっているのはさすがである。
徳大寺を慕う学生に大坂志郎など。
溝口作品では、失敗作と言われているが、メロドラマとして見ればなかなか面白い。
フィルム・センター