新藤兼人の露悪趣味

一昨日、昨日と川崎の市民ミュージアムに行って、「独立プロダクションの映画作家たち」特集で、新藤兼人の『どぶ』と『人間』『母』を見てきた。『裸の島』も上映されたのだが、以前に見ているので敬遠。
『どぶ』は、川崎の沼の周辺に住む最下層の人たちの話。例によって宇野重吉、殿山泰治、菅井一郎、飯田蝶子、加藤嘉、信欽三ら新劇系の役者が大量に出る。実際に撮ったのは鶴見川河口あたりのようだが。宇野と殿山に頭のおかしい乙羽信子が転がり込んでくる。失業者だった彼らと彼女の生活が始まり、最後乙羽が死んで脳梅毒に冒されていたことが分かる。1954年制作。音楽が伊福部昭で、同時期に彼は『ゴジラ』の音楽も作っていたわけだ。

『人間』は、野上弥生子原作。嵐で小型漁船が漂流し、最後は金毘羅さんを信じる船長・殿山以外は全員が死んでしまう。この映画は、大変低予算の作品で、殿山のほか、ほとんど乙羽信子、山本圭、それに最後は飢えのため山本を食べようとして殺害する佐藤慶の4人のみの出演で、他は回想(渡辺美佐子)と救助された貨物船の人間・加地健太郎と、なぜか刑事役の演出家・村山知義のみ。1962年。

『母』は、広島を舞台にこれもスラムに住む最下層の人の話。いわゆる「原爆スラム」と言われたところに住む母・杉村春子と娘・乙羽が主人公。
子供が脳腫瘍になり、金のために乙羽は朝鮮人の印刷屋・殿山と結婚するが、病気が再発し子は死んでしまう。最初不承不承の結婚だったが、次第に殿山のやさしい人間性に引かれ、子供を新たに生む決意をする。
最後に杉村が言う台詞が傑作。「あの人とずっと暮らすの?私はその場しのぎに言ったことなのに」この庶民のリアリズムは、すごい。制作1963年。これにもなぜかバーの女・小川真由美の男でヤクザのような人間で演出家・武智鉄二が出ている。
3本とも、貧困がテーマであるが、新藤の露悪趣味がたまらない。
言うまでもなく新藤は、優れた脚本家だが、監督としてはどうか。
その露悪趣味というか、露骨さは相当で、私は余り好きになれないのである。

ここ川崎市民ミュージアムはなかなか頑張っていると思うが、現在の「行革」の対象となっており大変なようだ。今回も客は毎回30人くらいだから、スタッフの人件費にもならないだろう。
自治体の文化事業はどこも大変である。市民ミュージアム、頑張れ!
来月は、吉村公三郎で『愛すればこそ』『足摺岬』(15日)、『夜明け前』『襤褸の旗』(16日)が上映される。
アドレスは、http://home.catv.ne.jp/hh/kcm である。

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