『ひばり』

ジャン・アヌイの名作。
日本では劇団四季が藤野節子主演でやったのが有名だが、私は見ていない。
蜷川幸雄演出、松たか子主演の『ひばり』は、多分今年最大の収穫となるだろう。
なによりもオルレアンの少女、フランスを救った救世主ジャンヌ・ダルクの松たか子が素晴しい。
一昨年、野田秀樹の『贋作・罪と罰』での松も、解放された演技が見事だったが、ここでも素晴しかった。
ジャンヌの松は、自由に振舞い、思うがままに言葉を言い、シャルル以下のフランス人を励まし、勇気を与え、馬に乗り、隊列の先頭に立ち、イギリスと戦い、フランス中を転戦する。
そして、最後は敗れて捕まり、異端審問の宗教裁判に掛けられ、短い生涯を駆け抜けているように見える。
異端審問官から大司教、司教等が出てきて、それぞれの立場で論じるが、この辺の宗教的立場の差異は我々には良く理解できないところであるが。

かつて演出家鈴木忠志は、松の父親の松本幸四郎がまだ市川染五郎の時代の、『ラ・マンチャの男』の初演時、「日本の新劇がずっと求めてきた『解放された、自然な演技』が皮肉にも歌舞伎役者の染五郎によって初めて実現された」という趣旨の批評を書いた。
歌舞伎という言わば、生まれついての芝居のプロにおいてしか、日本では解放された演技は可能ではないのか、と思いたくなる程の松の演技だった。
特に、ラスト、火刑台に掛けられる直前の台詞はすごく、ここで涙しない人間はいない。

言うまでもなく、救世主ジャンヌ・ダルクを作り出し、そして火あぶりにしたのは、敗戦の混乱のフランスの民衆の願望である。
言ってみれば、それは究極の「ポピュリズム」であり、現在の日本で言えば、「そのまんま東」現象になる。

橋本さとし、山崎一、壌晴彦ら、ジャンヌを攻め、論破し、襲い掛かる敵役も良い。一部にアヌイの台詞について行けないのか、台詞の意味が良く分からないのがいたのが少々残念だったが。

それにしても、アヌイの台詞術、雄弁術はすごいが、こういうのをまさに弁証法的というのだろう。
さらに、神と人間の関係について日本の我々は、彼ら欧州のキリスト教徒に比して全く考えないことを痛感させられる芝居であった。
シアターコクーン

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