「ジャズはかくも堕落した音楽になったのか」評判の映画『スイング・ガールズ』を見ての感想である。
本来、ジャズとはセックスを意味する隠語であり(ジャアーズと発音すると感じが出る)、これはロック、さらに日本のイカス、ハクイ、マブイなどと同じ類の、相当に危険な人間たちの隠語、下品な言葉であった。
つまり、19世紀後半のアメリカの黒人社会の中で、少々危険な匂いのする、しかしかっこいい感じをジャズと言ったのである。だから、ジャズは形式でも様式でもなく、ある種の傾向、感じである。スイングやアド・リブもジャズに固有の形式ではない。それらは、多くの民俗音楽に共通するものであり、時にはクラシックにもある。
1960年代までジャズは、そうした危険な要素を持っていたが、現在では全く存在しない。今やジャズは第二クラシックである。現在では中学生のジャズ・バンドも珍しくない。
あの映画のどこにそうした危険な音楽をやる快感があっただろうか。全くない。
映画としての出来から言っても、『スイング・ガールズ』は、同じ矢口史靖監督の『ウォーター・ボーイズ』にはるかに劣っている。この程度の映画が各種の賞を取るようでは日本映画の低下も極まれり、と言うべきであろう。
だが、少女たちが楽器を演奏する姿がサマになっているのは時代の進歩と言うべきか。
昔々石原裕次郎が映画『嵐を呼ぶ男』をやったとき、さすがの裕次郎もドラムは叩けたが、ハイ・ハットを足で踏むことは出来ず、助監督が下にもぐって動かしたのだそうだ。この映画では、女優たちの演奏が(音は別だろうが)結構サマになっているのに驚いた。特にドラムの子はかなり出来るのではないか、と思った。
一つ懐かしかったのは、主人公のお婆さんとして、桜むつ子が出ていることで、彼女は83才のはずだ。