原節子で満員 『東京の女性』

国立映画アーカイブのアンコール特集に行く。

『東京の女性』は、前にCSで見たが、『青春の気流』は唯一見ていない黒澤明脚本なので、昼前に行くと、すぐに満員になる。小ホールなので仕方ないのだが。原節子は人気があり、特に女性が多い。

原節子が演じるのは、車の販売会社のOLで、英文タイピストからセールスマンになる女性。車の販売だが、すべて輸入車で、この時期はまだ国産車は外車の相手ではなかったのだ。原も車を運転するが、実際にやっている。

原の家は、父親が事業に失敗してので、妹の江波和子も会社で働く。江波和子は、江波杏子の母親で、エイキゾチツクな顔つきだったが若死にしたので、作品は多くない。仕事一筋で、やり手の原に比べ、江波は可愛いとのことで社内で人気になる。課長からセクハラまがいの食事に誘われたりするがうまく逃げる。

そして、社内トップのセールスマンで、当初は原節子に営業法を教えてくれた立松晃は、江波の可愛さに惚れて結婚する。原は、仕事一筋で生きていくことを決意して車を飛ばしてゆくところでエンド。ここにあるのは、欧米風都市としての東京であり、カフェ、外車、レストラン等が出てくる。また、オート三輪も見られ、この1939年からオート三輪はあったとは驚く。ダイハツのミゼットで、戦後のことだと思っていたのだ。原作は丹羽文雄で、非常にフェミニズム的であることに驚くが、丹羽は意外にも真面目で酒も女遊びもしなかったのだそうだ。

『青春の気流』は、1942年の作品、脚本が黒澤明で、すでに太平洋戦争が始まっているのに、旅客飛行機を開発する航空機会社の技師大日向伝が主人公。軍用機ではないのは、作者たちの抵抗なのか、あるいは原作がもっと前の作品だったのか。

社内では、心機開発派の進藤英太郎と反対派の清川荘司が対立していて、技師の間にも対立があるが、大日向は進藤英太郎の支持を得て、開発を進める。

そして、進藤の娘の原節子は、大日向の惚れていて、積極的にアプローチするが、大日向は、喫茶店で知合った山根寿子が好きだが、なかなか言い出せない。

勿論、最後は大日向と山根が結婚し、原も祝福し、新機も完成し、二人が乗ってハッピーエンド。

ここで注目されるのは、原節子が大日向とのことを父親に言われて諦めて、進藤が「旅行に行こう」と言い、「どこがいいか」と聞かれると、

「奈良がいいわ」と答える。まるで、小津安二郎の『晩春』ではないか。ここから小津はヒントを得たのだろうかと思った。

どちらも監督は、伏水修で、ピアノも弾ける教養人で、原節子が唯一惚れた人だったそうだ。

センスと言い、確かに逸材だったはずだが、32歳で病死したため『青春の気流』が遺作となった。

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