『姿三四郎 1977年 岡本喜八版』

国立映画アーカイブの「映画で見る明治の日本」で一番見たかったのが、この岡本喜八版『姿三四郎』だった。だが、先輩の堀内聡さんの告別式で行けなかったので、ネットで探すと中国語字幕版があったので買って見る。どうやら元はビデオをDVDにしたもののようで画面は荒く、音もひどいが話は十分にかる。

察するに、監督の岡本喜八は、脚本には苦労しただろうと思う。なぜなら、東宝の至宝のごとき黒澤明の『姿三四郎』は、本当は原作と随分と違うが、極めて良い出来だったので、世の人はそれが原作だと信じているからである。

富田常雄の原作は、現在で言えばほとんど「トンデモ本」で、乙美は、南谷公爵の妾腹の娘だが、公爵の正妻の娘からも三四郎は惚れられると言った、因果話的な筋が前半を占めているからで、黒澤はそれを全部切ってアクションにしたので、明快な筋になって成功したからである。

ここでは岡本は、当時まだ現存していた黒澤先生を尊重し、黒澤版の良いところ、三四郎が蓮池に飛び込んで悟りのようなものを得る件(原作にはない)、柔道の試合でスローモーションを使い、さらに投げられた男の上に障子がゆっくりと落ちてくるところ、権現様で三四郎が乙美と会い、「僕は姿三四郎です」と正直に名乗るところなどを入れて、黒澤ファンの記憶を裏切らないようにしている。

そして、最小限度に南谷公爵の芦田伸介、娘の神崎愛らの原作の挿話を入れており、原作を大変に尊重した筋になつている。

この映画での最大の見せ場は、警視庁の師範を決める試合で、村井半助の若山富三郎と三四郎の三浦友和との対決である。

互いに投げて投げられるが、さすが本当に柔道5段の若山の技は凄い。若山の晩年の映画『衝動殺人・息子よ!』で、新横浜駅の階段で転げ落ちるシーンがあり、彼は一発の本番OKで決め、周囲の者を唸らせたというが、ここでも何度かある若山の受け身は誠に見事である。多分、歴代の『姿三四郎』史上で最高の出来の柔道シーンだと私は推測する。

黒澤版で、村井半助を演じた志村喬も結構様になっていたが。

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