日本ATGで、実相寺昭雄作品が最後になった問題作。
私も『無常』は見たが、後は見なかったが、見なくて正解だったと分かった。
ともかく退屈、面白くない、何をやっているのか分からない、凄い作品である。
こんなものを作り、公開したこと事態が不思議な感じがする。
本当は、歌の漢字は、右のつくりの欠がない字なのだが、そんなことに何も意味はないので、歌にする。
だが、一体どこが歌なのだろうか、それらしきものはどこにもない。
1970年、実相寺昭雄の監督、石堂淑郎脚本で日本ATG公開の『無常』は、大ヒットする。
当時、エロ映画は、まだピンク映画、あるいは若松孝二映画程度しかなく、きれいな女優の裸を見られる日本ATGは、「文芸エロ」として大変人気があった。
『無常』でも、人気モデルの司美智子が脱ぎ話題になった。
だが、1971年の『曼荼羅』の後、同年秋には日活ロマンポルノが始まる。
そうなれば、文芸エロの意味はなくなったのだである。
そして、1972年夏に、こんなに曖昧なエロ映画を出しても、誰も見なかったのも当然で、大ずっこけ映画になる。
ここでは、山林地主の息子の弁護士・岸田森の妻が八並映子だが、岸田はインポなので、べッド・シーンはなく、ほとんど脱がない。
そうなると、その役割は、岸田の助手田村亮の恋人桜井浩子になるが、彼女は貧弱な体なので、少しもエロ度は上がらない。
その大きな古い屋敷には、岸田の父親の嵐寛寿郎が愛人・荒木雅子との間に作った息子の篠田三郎がいて、家屋敷を守り、貞操堅固に生きている。
この篠田の役柄は、どこか三島由紀夫を思わせるが、それ以上特別になにもない。
最後は、次男の東野英心がいきなり現れ、野蛮な行動によって家はめちゃくちゃになる。
なんと篠田には「飯を食うな!」と命令すると、篠田はそれを守って死んでしまう。
一体、ここから何を得て、感じろと言うのだろうか。
全く人をバカにした映画である。
シナリオの石堂淑郎も完全な失敗作と認めている。
日本ATGが、二度と実相寺・石堂コンビを相手にしなかったのは、当然である。
その実相寺昭雄も3年前に死んだ。