やはり海老様は、すごい

松本清張生誕100周年とのことで、日本テレビで『霧の旗』が放映された。
松竹での野村芳太郎監督、倍賞千恵子主演以来、山口百恵と三浦友和作品、あるいはテレビでも何度か作られている。話は言うまでもなく人権派の有名弁護士に冤罪の兄の弁護を断られた桐子の復讐劇である。この小説のアイディアは、フランス映画『裁きは終わりぬ』であることを清張自身が明らかにしているが、大変よく出来た話である。
歌舞伎の因果物といえなくもないが。

今度は、桐子は相武沙希、弁護師は市川海老蔵だった。
相武は、相変わらず台詞と声がひどいが、前から見れば随分良くなり、見苦しさはなくなった。
そして、特筆すべきは、市川海老蔵の芝居の上手さである。
一番の見せ場は、桐子に、自分の愛人・戸田菜穂の無実を証明するため、海老蔵が証拠のガス・ライターの提供を懇願するところである。海老蔵は雨中の公園で、泥水の中に額を突っ込んで桐子に懇願する。
この辺は、やはり演技を常に優れた型で表現している歌舞伎役者の凄さである。これは、多分、百恵・友和作品での三国連太郎以来のできだろう。

今回のラストは、海老蔵は、弁護士を辞めるが、桐子は証拠のガスライターを検察庁に送付し、真犯人は逮捕され、戸田菜穂は無罪となり、兄の冤罪も証明される。
この辺は、やはり時代の変化と言うべきか。
松本清張の原作、そして最初の倍賞・野村作品には、階級的復讐が色濃く出ていた。
貧困層の桐子は、富裕な堕落した階級の滝沢修・新珠三千代らを罰して当然という視点があった。
だが、社会的階級差が以前よりはるかに少なくなった今日、ラストをハッピー・エンド風にするのは、仕方ないのだろう。桐子と兄は、零細企業の経営者になっているのだから。
欠点を言えば、異常に音楽がうるさかったこと。
もう少し、音楽を切った方が良かったはずだ。
演出重光了彦

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コメント

  1. 桐野 より:

    Unknown
    「霧の旗」は、山田洋次監督作品です。

  2. さすらい日乗 より:

    そうでした
    最初の映画化の監督は、野村芳太郎ではなく山田洋次でした。ご指摘有難うございます。

    ついでに訂正しておけば、もとねたのフランス映画は、監督は同じアンドレ・カイヤットですが、『裁きは終わりぬ』ではなく、『目には目を』でした。重ねて訂正します。