作詞家の岩谷時子が亡くなられた、97歳とはすごい。
彼女の経歴には、宝塚歌劇団にいた、となっているが、やっていたのは、雑誌の編集である。
宝塚は、今でも毎月『歌劇』と『宝塚グラフ』の2誌を出しているはずだ。『歌劇』は一種のファン雑誌で、本文のきちんとした記事と共に、一般のファンの投書や文章も載っている。
こうした雑誌の類は、戦前は映画会社のほとんどが出していたもので、大映等で多数のシナリオを書いた八尋不二も、元は映画会社の機関誌の編集者がスタートだったはずだ。
さて、宝塚だが、こうした機関誌を出していることはすごいことだと思う。さらに、毎月の公演では、プログラムに全出演者の写真と演目の脚本が載っている。
こうしたファンサービスは、恐らく儲からないと思うが、ファン作りとしては、大変に意味があることと思う。
例えば、プログラムの脚本を見て、ファンは自分で憧れのスターの台詞をまねて演技してみたりするに違いない。
そういうことは非常に大事なのである。
かつて子どもができるまで、私の妻は、大地真央ファンクラブの会員だったので、彼女の「さよなら公演」を私も東京宝塚劇場に連れて行かされたことがある。
私は公演は見ずに、劇場前で待ち合わせて食事したのだが、大地は、夜の公演に出るために、ちようど劇場入りするところだった。
彼女は、道路をはさんだ向こう側の帝国ホテルに泊っていた。
だが、毎日、その帝国ホテルから、宝塚劇場の楽屋口までのわずか100メートルを、彼女は外車のオープン・カーに乗って送られてくるのだった。
もちろん、大勢のファンの群れの中をしずしずと進みつつ。
妻の話では、高級外車はファンのもので、毎日の順番は、ファンクラブが決めているのだという。
すごいというしかない。
これは、誰もが損をせず、すべてが喜ぶ構造になっている。
ファンは、ご贔屓のスターのお世話をする喜びでうれしい。
スターは、自分は本当に大スターであり、大勢のファンに支持されているという喜びに大いにひたれる。
その分、歌劇団は人件費を安く抑えられる。
帝国ホテルでの彼女の食事も、ファンが毎日来て作ってくれるのだという。
スターの輝きというものは、こうしたファンの称賛の視線によって作られるものなのだから。
小林一三という人はまったくただの経営者ではない、なにしろ戦前には発禁本も書いている、というより出した本が発禁になってしまったのだから。
内容は、別に反体制的といったものではなく、風紀上よろしくないというもので、今読むとどうということのないものだったと記憶しているが。