『東京裁判への道』 粟屋憲太郎(講談社学術文庫)

東京裁判の記録の内、起訴に至る公開された国際検事局の資料をたどって東京裁判をめぐる戦後の情勢を明確に描く好著で、非常に面白く4日間で読んでしまった。

いろいろと初めて知ったことがあるが、まず第一は、マッカーサーが国際裁判をする気がなかったこと。

彼は、アメリカ単独の軍事裁判をしたくて国際裁判には反対だった。マニラで本間中将が裁かれたような軍事裁判で即決したかったとのこと。

主席検事のキーナンも、個人的には異論があったようだが、1946年になると昭和天皇を訴追しないことにする。

天皇訴追に最後までこだわったのは、オーストラリアのみだった。

そして、昭和天皇は、この裁判の結果には、最大限の賛意を示していたが、これだけでも「東京裁判史観」なるものが、インチキであることがわかるだろう。

この裁判の結果である、太平洋戦争は間違いだったことを認めると共に「日本国憲法」を持って国際社会に日本は、復帰したのだから、いまさらこれに対して文句を言う筋合いはないのである。

その他、被告の選定については、二転三転あり、全体としては意外にも公平だったことがわかる。それは、アメリカのみではなく、ソ連、中国、フィリピンらが検事団にいたためのようだ。

その意味では、石原莞爾と真崎甚三郎が被告にならなかったのは、不公平との批判があるが、この二人は満州事変から2・26事件と言う、太平洋戦争に至る過程では、重要な役割を演じた。日本国内では、裏の人物として勇名をはせるが、国際的は有名ではなかった。

さらに、太平洋戦争段階では、反東條英樹派だっため、政治の中心から追われて公職についていなかったので、不起訴となる。

要は、太平洋戦争の責任が一番問題にされたのだが、アメリカから見れば当然だろう。

不起訴の被告で傑作なのは、笹川良一で、自書では、『軍艦マーチ』をバックで威勢よく尋問に出頭したというのも、真っ赤なウソのようだ。

このうそのつき方はすごいが、そんくらいの度胸がなければ、日本のドンにはなれないのだろう。

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コメント

  1. ogata より:

    講談社学術文庫
     粟屋憲太郎先生(立教大学名誉教授)は、わたしの直接の卒論担当教員でした。この本は、アメリカへ行って直接史料収集したぼう大な文書を80年代に朝日ジャーナルに連載したものが基になっています。その後体調を崩され、なかなか本にならなかったのですが、21世紀になってまとまったのを嬉しく思いっています。

     この本を読むと、「良質の直接史料」を読むことの面白さを教えてくれる気がします。まあ、アメリカが中心の検事局史料ですから、もちろんそのままで信用はできませんが、少なくとも「日本の有力者がアメリカに裏で何を言ったか」はよく判ります。

     ところで、中公文庫ではなく、講談社学術文庫ですので、一応。今はネットで買う人が多いかもしれませんが、それでも書店で探して見つからないことがあるかもしれませんので。

  2. そうでした
    中公文庫ではなく、講談社学術文庫でした。直します。