『男の世界』

タイトルでDNのダイニチ映配のマークが飛び出してきたので悪い予感がしたが、やはり石原裕次郎主演で、監督は長谷部安春だが、実に弛緩した手抜き作品。

1971年1月で、これが石原裕次郎が出た最後の日活作品になるが、この時はみなそうは思っていなかったにちがいない。

羽田飛行場に海外に行っていた裕次郎が戻ってきて、昔の仲間の菅原謙次、小高雄二、川地民夫、武藤武章、なべおさみらが集まってきて歓迎している。

どうやら裕次郎は、昔ナイトクラブをやっていて、ある事情で恋人を失い、店も手放して傷心のままに外国に行ったらしい。

中で、やたらに「男の世界」というセリフが連発されるが、男同士がじゃれているようで、やや不愉快である。

勿論、男が惚れるほどに石原裕次郎は、良い人間だったことの現れかもしれないが。

それとは逆に、兄の石原慎太郎は、浜渦氏と映画監督の新城卓以外ほとんど誰もついて来ないひどい人間であるようだ。

そこに裕次郎たちと出入りをし、彼の恋人を殺して刑務所にいたヤクザの内田良平が出獄してくる。

彼の手下は、三田村元以下の大映の役者で、菅原と言い、この頃はダイニチで、大映と日活の俳優が交流していたわけだが、時すでに遅しである。「5社協定」で、幹部俳優、スタッフの自由な交流を阻害して映画製作の多様性を自ら放棄したことが、日本映画界の没落の大きな原因の一つだったのだが。

裕次郎がやっていた店は、大滝秀治が継承していて、マネージャーの玉川伊佐男もそのまま雇われている。大滝は、裕次郎の申し出を快く受け入れて事業を継承したことになっているが、本当は内田良平を使って裕次郎とのいざこざを起こさせて、店を乗っ取ったのである。

大滝が悪を演じているので、ここはすごみがある。

もう一つ挿話があり、それは貧乏なカップルの沖雅也と鳥居恵子とのことで、出まかせに旅行代理店で「カナダに行きたい」と言った二人を、菅原がやっている旅行代理店で聞いた裕次郎は、その夢を叶えてあげようとし、沖に職を与えて二人の夢が叶えられるようにする。

だが、内田たちの謀略に引っかかって逆に裕次郎を殺す手引きをさせられる。

これは東映のやくざ映画で、津川雅彦らのチンピラが善玉の親分を悪玉が殺すために動かされる筋書きと同じであり、非常にセンスが古い。それもそのはず、シナリオは松浦健郎の弟子のひとりの中西隆三なのだから仕方ない。

最後、裕次郎らと内田良平らは神宮球場のスタンドでの乱闘になるが、球場って自由に入れるものなのだろうか。

菅原のマンションの部屋にいた裕次郎が、かなり遠くの道路上から三田村によってライフルで撃たれるが、部屋のガラスは壊れていないなども非常に適当。

『夜霧よ今夜もありがとう』『赤いハンカチ』を裕次郎が歌うのはひどいが、服部良一さんの『胸の振り子』を二度も歌うのは許せるし、非常に抒情的でよい。また、刑事が宍戸錠で、アクションシーンはないがさすがに貫禄がある。

この7か月後の1971年8月、日活は『八月の濡れた砂』を最後に一般映画の製作を中止することになる。

チャンネルNECO

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