映画はテレビの出現で急速にダメになったと言われる。
確かにその通りだが、日本映画界は必ずしもそう単純ではなく、1961年に新東宝が潰れるが、日本映画界は、今見ると1962、1963年頃が作品的にはピークだったことが分かる。
黒澤明、小津安二郎、成瀬巳喜男、伊藤大輔、内田吐夢らがいて、木下恵介、市川崑、岡本喜八、増村保造らも新作を出していた。その上、大島渚、篠田昌浩、吉田喜重らのヌーベルバーグ、さらに蔵原惟繕、野村孝、松尾昭典、鈴木清順、舛田利雄らの日活など、新旧の監督が活躍していたからである。
だが、本当に日本人が「映画よりテレビのドラマの方が面白いぞ」と思ったのは、1964年の東京オリンピックのテレビ中継だった。
バレー・ボール女子など金メダルを取った種目もあったが、一番のドラマは、柔道無差別級で日本の神永昭夫がオランダのヘーシンクに抑え込まれて負けた時だったと記憶している。
しかも、この時、狂喜して柔道場に上がろうとしたオランダ人を手で制止したのである。
見ていて、「本当に負けたな」と子供心に思った。
俗に「野球は筋書きのないドラマ」と言われるが、テレビのスポーツ中継は筋書きのないドラマで、特に一発勝負のオリンピックは、番狂わせが多いので大変にドラマチックである。
ボクシングでも、絶対に金メダルと言われたライト級の白鳥金丸は二回戦で負け、ほとんど注目されていなかったバンタム級の桜井孝雄が金メダルを取った。
今回のサッカー・ワールドカップの日本の、対ベルギー戦の展開は実に凄い筋書きだったと思う。格上のベルギーに対して後半で2点リードし、「あるいは勝てるのでは・・・」と思わせた。その後、3点取られて逆転されるなど、到底考えつかない筋書きである。
しかも、こうした劇が真剣に行われるのだから、作り物の劇はかなわない。
大変に残念なことだが。