『悪い奴ほどよく眠る』

1960年に公開された黒澤明作品だが、これを最初に見たのは、多分1963年で『天国と地獄』が公開された直後だったと思う。

渋谷の道玄坂の奥にあったテアトル・ハイツで、『天国と地獄』との2本立てだった。

テアトル・ハイツは、その名のとおりテアトル系で、主に東宝の名画を2本立てで上映していて、岡本喜八の『江分利満氏の優雅な生活』もここで見た。

ハイツの他、テアトルSSというストリップ劇場もあり、ここはストリップ劇場の中では地位の高い名門だったらしい。

ハイツは、大変音響の良いきれいな映画館だったが、すぐにピンク映画の上映館になったようだ。

さて、『悪い奴ほどよく眠る』だが、冒頭の結婚式のシーン、かのコッポラも、『ゴッド・ファーザー』で真似した手法で、あざといが上手く全体を説明している。

三井弘次が新聞記者のボスでほとんどの台詞を司っているが、俳優座の横森久もいて、台詞なしで児玉清も出ているが、立っているだけ。

横森久は、俳優座の中堅の役者で、この年の初夏、姉が入っていた俳優座後援会の運動会に行った時、イベントの司会をやっていた。

そこでは岩崎加根子がきれいだったことを憶えているが、場所は今のお台場で、当時は竹芝桟橋から船で行く公園になっていた。

いつ見ても、この映画での三船敏郎と加藤武の、汚職役人たち(公団なので、厳密にはみなし公務員だが)への異常な怒りは、今一つ理解できない。

だが、この映画での黒澤明の画面の造形力は凄い。

カメラの逢沢讓は、黒澤とはこの作品のみだったが、美術の木村与四郎と合せて造形力は大変なものだったと思う。

仄聞したところでは、中井朝一が、『蜘蛛巣城』で、黒澤明の余りのわがままに業を煮やしてやめてしまったからだそうだが。

ラスト近く、志村喬らを閉じ込める廃工場は、豊川にあった海軍工廠跡地だそうで、これも相当に造作しているだろうが、凄いセットになっている。

なぜ、この映画で黒澤明が、汚職や下級役人の生態をテーマに映画を作ったのか、今は理由も分かったが、それについてはまた別に書くことにする。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする