『とめてくれるなお母さん』

1969年に松竹で作られた一応は喜劇映画だが、ほとんど笑うシーンはない。

『男はつらいよ』の源公の佐藤蛾次郎を中心に、モデル出身の大野しげひさ、それに太っているだけの能なし男大橋荘多の「ちょこちょこトリオ」のデビューにして最後の作品。

監督は田向正健で、彼は他にも良い脚本を書いていたが、松竹大船では限界があったのか、『雲のじゅうたん』などテレビの脚本で活躍することになる。

横浜で、ちんぴらの3人は、念願のヤクザの組員になるが、なった途端に対立する組との抗争で潰れてしまう。

行く場所がなくなった蛾次郎は、故郷の北海道に戻る。

その村に元組長の大坂志郎が乗り込んでいて、原発建設のために土地を無理やり買収していて、家は焼かれ、妹の早瀬久美は娼婦にされている。

ついに怒りに燃えた佐藤蛾次郎は、母親の宝生あやこの止めるのも聞かず「とめてくれるなお母さん」とヤクザの連中に向かい共に死んでゆく。

こんなものも作っていたのかと思うが、西河克巳によれば、この頃に『恋人岬』を撮りに彼が大船に行ったとき、

「昔と全く変わってない上に、助監督が働かないので困った」と書いている。

田向正健のような才能があり、まじめな人間には多分耐えられなかったのだろう。

衛星劇場

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする