『妻として女として』は『浮雲』の続き。

成瀬の名作の一つで、十年くらい前にBSで放送され録画してあるが、最後まで見た。これは、『浮雲』の高峰が死なず、戦後も生きた話である。

大学教授の森雅之は、高峰に銀座でバーをやらせていて、二人の間の子(星由里子と大沢健三郎)は、妻淡島との正式な子供になっている。
高峰と母親飯田蝶子との掛け合いが傑作で、元芸者だった飯田と高峰の台詞は直ぐに長唄、小唄になってしまう。飯田と高峰は、松竹蒲田以来の親子コンビ。

最後、森雅之のところに高峰が来るところがすごい。
脚本の井出俊郎さんは、『青い山脈』を歌舞伎の『忠臣蔵』の12段で書いたそうだが、ここも歌舞伎の感じで、高峰の出に思わず「待ってました!」と声を掛けたくなる。
高峰と淡島のすさまじいやり取り。その中で何も言えない森の卑怯さ。すべての男、夫が恐縮するシーンであろう。

大沢健三郎は、成瀬の『秋立ちぬ』以降、当時の様々な映画に出ているが、岡本喜八の『血と砂』あたりでいなくなってしまった。
子役が本当の役者になるのは大変難しい。日本映画史上では、高峰秀子と吉永小百合だけだろう。

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