『あゝ、荒野』

『あゝ、荒野』は、約50年前に書かれた寺山修司の小説で、この題名はもともとは、ユージン・オニールの戯曲の題名である。私の卒論はオニールだったのだが、どういう劇だったかは憶えていない。

寺山が、ここでやりたかったのは、オニールではなく、ジェイムス・ジョイスの『ユリシーズ』を1960年代の新宿を舞台に展開することだったと思う。

晩年は、日本の土俗的なものを描いた寺山だが、元はアメリカ的な乾いた抒情性である。寺山が日本炊きな土俗性を取り上げるようになったのは、劇団天井桟敷を率いて外国に行ってからで、世界で売れるためには日本的なものをもっていかないと意味がないからである。

それは数年前に亡くなった大滝詠一とも共通する感覚だと私は思う。東北に生まれながら、アメリカ軍基地の近くにいて、アメリカ文化の影響を強く受けている。共に父親が亡くなり、母親に育てられたというところも共通している。

さて、この新作でも主人公は、新宿のチンピラの新宿新次(菅田将喗)とどもりで不細工な男のバリカン健二(ヤン・イクチョン)である。二人をボクシングのトレーニングをするのは、片目(ユースケ・サンタマリア)とトレーナーのでんでん。

原作には、彼らの生い立ちはほとんど書かれていなかったはずだが、ここではそこが半分以上描かれている。さらに、設定が2020年と2022年で、奨学金を得た学生に介護研修をさせる法ができようとしていて、それへの若者の反対運動もある。

疑似徴兵制との反対には、現在の安倍政権への批判があるのだろうが、いっそオリンピック後なので、アベノミックス崩壊の大不況になっているとでもして欲しかったところだが、日本映画では無理だろう。

前編には、自殺防止運動のライブ中継もあるが、こんなものが必要なのか、大いに疑問である。

役者では、ユースケ・サンタマリアのジムのオーナーで、介護施設で悪どく儲けている高橋和也が良い。

ボクシング指導は、前編で新次に最初の負ける松浦慎一郎君で、去年の「新人監督映画祭」グランプリの主人公で、彼は俳優もやっているが、ボクシング等の指導が本職なので、ボクシングの試合のシーンはよくできている。

日本のボクシング映画も、ここまで来たかと思う。

前編は面白いが、後編は腰砕け状態で、2本にする必要があったかは、はなはだ疑問がある。

前編が終わったとき、若い男が女性に「もう時間的に限界・・・」と言って出て行った。

若者にとっては長すぎると私も思った。

キネカ大森

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする