貴志祐介の小説を蜷川幸雄が監督したもので、主演は二宮和也と松浦亜弥。このキャスティングはいかにも蜷川らしい。「アイドルには、その時代を表現するものが必ずある」というのが蜷川の持論で、多くのアイドルを舞台で使ってきた。
ここでは、二宮と松浦の会話は、今風によく演出されている。
二宮に殺されてしまう悪い男が、山本寛斎で、これも面白いキャスティングだが、狂気に近い自己中心的な中年男にぴったりである。
その元妻(再婚し、離婚している)で、二宮の母が秋吉久美子。これが実に色っぽい。こんなに色気があっては、息子も誘惑されるのではと思ってしまう。
二宮が山本を殺すのは、山本が妹に手を出しそうにしたからなのだが、むしろ母親と息子が近親愛にあるので、邪魔な山本を殺したようにも見える。
作品としてはいまいちにも見えるが、二宮の演技は現在の若者をよく表現している。また、いい加減な大槻ケンジらの教師が面白い。
蜷川は映画が大変好きらしく、一番影響を受けたのは、1950年代のワイダらポーランド映画だと書いていた。作品的にも随分出ていて、篠田正浩の『暗殺』では準主役級で、かっこよく詩吟で踊る。
彼の代表的作品『にごり江』は、樋口一葉の小説群を一本の芝居にまとめたものだが、この発想は今井正の映画『にごりえ』が、「おおつごもり」「「十三夜」「わかれ道」「おりき」を一本にしたオムニバス映画からだと思う。
今井の映画では『たけくらべ』は除かれているが、おそらく当時美空ひばり主演で五所平之助が『たけくらべ』を撮っていたからだと思う。