『市川崑大全』

『映画秘法』編集による市川崑のすべてを記述した本である。
市川崑については、森遊机が市川にインタビューした『市川崑の映画たち』が最上だが、現在ではなかなか入手しにくいだろう。
この新刊でも、市川の最初の作品である東宝での人形アニメ映画から、映画化されなかった幻の企画まで、詳細に書かれていて読んで大変楽しい。

市川崑が、岩井俊二など若い世代に支持されるようになったのは、『犬神家の一族』に始まる角川映画・横溝正史ものだろう。
私も全部を見ているわけではないが、中では『悪魔の手鞠唄』が一番良くできていて大変感心した。
特に、主人公の岸恵子が若いとき、関西で「女道楽」をやっていたあたりが挿入されているのが、私のように日本芸能史に興味があるものにはうれしい。
女道楽とは、別に「女遊び」に耽ることではなく、戦前に主に関西であった芸能の一つで、女性が三味線を弾きながら様々な芸を見せるものだった。
当然、多彩な才能と修業を要すので、近年ではほとんど途絶えてしまった芸能である。
市川崑は、関西に生まれ育ち、映画界入りも京都のJOスタジオだったので、この辺は詳しいのだろう。その後、JOが東宝に吸収合併され、市川も東宝の東京撮影所に移行する。

このJOと言うのは、日本映画史で見れば、市川崑の他、今井正が監督デビューした撮影所であり、意外と意義がある。
『女の一生』で有名な森本薫がシナリオを書いた映画に『花散りぬ』がある。
これは幕末の京都の勤皇と佐幕の争いを、ある旅館の話として描かれたもので、ちゃんばら映画で居ながら男が一人も出てこない作品(戦時期で男優が不足していた)だそうで、なかなか面白いシナリオだが、上映されず見たことがない。

また、女優の清川虹子も、このJO映画の親会社の大沢商会の重役と結婚していたことがあり、その関係で、彼女は長く東宝映画に多数出演することになる。

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