『佐久間ダム・総集編』

日本映画専門チャンネルでは、昭和の記録として岩波映画の記録映画を放送している。黒木和雄の『わが愛、北海道』も放送されるので、大変楽しみ。
映画『佐久間ダム』は、電源開発(現在のJ・パワー)が静岡県天竜川に作った佐久間ダムの記録映画で、当時東宝系で公開され、大ヒットした。
私も、小学校の授業として映画館池上劇場で見た記憶があるが、中身は全く忘れていた。今回、見ておぼえていたのは、ダムが次第に完成し、水が溜まって水位が上昇し、蛇や動物たちが水没から逃れて右往左往する場面だけだった。
ほとんどがダム建設の工事工程の詳細な説明と記録なので、ほとんど理解できなかったのだろう。
このダムは、普通なら10年はかかると言われる巨大工事を3年で完成する計画で、予定通り昭和31年にできる。
日本で最初に近代的な大型機械が導入された工事で、ダム本体は間組、発電所工事は熊谷組が請負い、大型機械はアメリカからの中古品の輸入だった。
多分、歴史の授業で習う1930年代のニューディール政策の一つ、「TVA](テネシー河総合開発事業)等の米国各地の公共事業にに使われた中古大型機械だったのだろう。
大岡昌平は、フィリピンのレイテ島で米軍の捕虜になったとき、機械化されたアメリカの土木工事のすごさと、日本の人力によるそれの貧弱さ、非合理性、非科学性を比較しているが、ここでも米国輸入の工事の合理性はすごい。
1930年代の不況の中で、機械化による近代的で科学的な社会システムを作り上げたのがアメリカであり、その合理主義が太平洋戦争での日本への勝利にもつながったのだろう。
工事に使用されるトラック等の車両も非常に大きく、これも多分アメリカ製の輸入品であることを思わせる。
当時、まだ日本の自動車メーカーには、大型車両の生産能力はなかった。

監督は高村武次、編集は伊勢長之助、音楽伊福部昭、ナレーターは「キネ旬」の記録ではNHKアナウンサーの藤倉修一となっているが、間違いなく仲代達矢である。
あるいは、今回放送されたのは総集編なので、後に再編集されたときに仲代に代えたのかもしれない。

ともかく、日本の国土開発、電力供給にはダム建設は無条件に善とされていた時代で、環境問題など誰も思わなかったときの産物。
田中康夫前長野県知事の「脱ダム宣言」など、夢にも思わなかったのである。

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