日本映画専門チャンネルの森繁特集で初めて見た1990年の斉藤武市監督作品、原作は宮本輝の大河小説。
はっきり言って愚作。
森繁は勿論、シナリオの須川栄三、カメラの岡崎宏三などのベテランが集まってなんていう映画を作ったのだろうか。
金儲け仕事としか思えない。
一番の問題は、主人公の森繁で、彼の役柄ではないのだ。
主人公の松坂は、大阪で戦争で打撃を受けた自動車部品会社を戦後に再興し、50代で初めての子を得るなど、波乱に富んだ人生を送る。だが、森繁久弥の役柄ではない。
彼は、相当に自分勝手で、しかも愛すべき人間なのだが、こういう役は勝新太郎や三国連太郎などがやるべき役で、自意識が先に立つ森繁の役ではない。
少しも可愛くないのだ。
だから、ドラマが全く弾まない。
いくら名優と言っても、そのニンではない役は駄目という典型である。
技術的には、多くのシーンの画面に紗が掛けてあるのが気になった。
紗を掛けるのは、戦前のハリウッドの女優の撮影や松竹のメロドラマでよく使われた手法だが、カメラ、フィルムの性能が向上した今日、紗の中の明るい部分がハレーションを起こし、ひどく不自然になる。
森繁の皺を隠すためだったのかも知れないが、無用の技法と言うしかない。