1939年の東宝京都作品、明治10年代の大阪船場、廻船問屋兵庫屋の娘花井蘭子の数奇な運命を描くもの。
以前から、見たいと思っていて、やっと見られて傑作だったので、大変幸福な気持ちになった。
花井は、同じ豪商和泉屋の息子藤尾順と許婚だが,関係はなかなか進まない。
そこに、車引きに身を売ろうとした山根寿子に遭遇する。
山根を花井は家に引き取り、その旨を山根の家に藤尾を報告に行かせる。
そこで、藤尾は、母親の伊藤智子の様子に不可解なものを感じ、「もしや・・・」と思い、花井を山根の長屋に連れて行き、伊藤と対面させると、伊藤にはただならない表情を表し、花井も伊藤が実は母親であることに気づく。
元々、花井の父の進藤英太郎は放蕩者で、花井は実の妻ではなく、愛人の伊藤智子に生ませた子だったのだ。
あまりのことに動揺する花井は、山根を藤尾のところに置かせる。
そして、西南戦争が起き、薩摩軍側に投資していた進藤は破産してしまう。
最後、花井は、藤尾と山根との将来を期待しつつ、自らは芸者として色町に出る。
花井は、明るい表情で人力車で置屋へと向かう。
とてもよく出来たシナリオで感心したが、それもそのはず、脚本は、『女の一生』の森本薫なのだ。
森本は、石田民三の映画では、この前作の『花ちりぬ』も書き、寺田屋騒動を全員女優で描くと言う秀作を作っているが、私は見ていない。
また、森本は、地元の劇団エラン・ビタール等を通じ映画界との交流があり、それが彼の名作で、映画監督一家を舞台にした戯曲『華々しき一族』を作り出したのだろう。
助監督は、市川崑。
実際に、大阪の船場でロケしたらしいが、船場はまさに水路に囲まれた船便の町だった。戦災と戦後の埋め立てで、何の情緒もない場所になってしまったが。
花井蘭子は、戦後の『細雪』での長女など大人しい役が多く、ただの美人女優と思っていたが、ここでは娘役をはつらつと演じていて、少々驚く。
許婚の藤尾順は、少しクセのある脇役の役者だったが、中原早苗の実父である。
神保町シアター