長い間あこがれていた映画を見たが、「こんなものだったのか」とがっかりする経験を持つ映画ファンは多いだろう。私にとって『狂熱の季節』がそんな映画だった。山田信夫脚本、蔵原惟善監督、間宮義雄撮影のゴールデン・トリオ。音楽は、勿論黛敏郎。
河野典生の原作、渋谷のチンピラ少年・川地民夫と郷英次が主人公、郷の恋人が、千代郁子。彼らは渋谷のデュエットというジャズ喫茶を根城にしている。この店の中も出てくるが、私が行っていた60年代後半とは違っている。一度、火事になり、改装されたようだ。
川地は、スリの現場を通報した新聞記者・長門裕之に復讐するため、その恋人の松本典子を暴行する。だが、ここが問題で、服を剥ぎ取ったのち、体を被せてカット、郷と千代のシーンになるため、一体やったのか、やらなかったのか、現在の目で見ると不明なのだ。勿論、やっていて、松本は妊娠する。
この辺は、性表現がポルノ時代以後どれだけ変化したか、性行為を具体的に描くようになったのか、極めて興味深い実例である。
日活は、過激な表現の会社だが、それでも1960年は、その程度だったのである。
作品は、松本に川地との関係を聞かない長門に対し性的陵辱を与えるという、極めて観念的な問題にあなり、展開はつまらない。
川地が、黒人ジャズが最高で、白人が盗んだとか、白人ジャズは最低だ、とか当時の日本のジャズ批評家が言っていたような、馬鹿らしいことを言うのが滑稽である。
ともかく、この作品は、次の『黒い太陽』と並び蔵原・山田コンビの観念性が出た良くない映画である。良い作品は、言うまでもなく『憎いアンちくしょう』『何か面白いことないか』『銀座の鯉の物語』の裕次郎・ルリ子の3部作である。