『ムネオイズム 2.0  愛と狂騒の13日間』

2009年8月30日、衆議院選挙は、民主党の大勝、自民党の敗北となり、歴史的な政権交代となった。
その時、衆議院議員で様々な疑惑の人物(「疑惑のデパート」と叫んだ女もいたね)だった鈴木宗男は、新党大地を率い、車椅子の元郵政大臣八代英太、歌手で盟友の松山千春らを比例区から立候補させ、北海道では民主党と組み、「小選挙区は民主党、比例は大地!」をスローガンに選挙戦を戦った。

このドキュメンタリーは、13日間の鈴木宗男に密着した作品であり、監督、撮影、編集は38歳の映像作家・金子遊である。
鈴木宗男は、自民党で金丸信の側近であり、その政治手法は小沢一郎、遡れば田中角栄の、あらゆる手法で地元への利益誘導を図る極めて古い自民党そのもののような議員だった。
だが、様々な汚職疑惑と郵政民営化反対から、自民党を離れ、敵対する民主党と組むことになる。
それが政治だと言えばそれまでだが、昨日の友は今日の敵になってしまう不思議さと異常さ。

選挙戦は、事務所開きでの神主の厳かな祝詞に始まり、最後当選した際の、鈴木宗男の神棚への深い参拝で終わる。
まさに、神にも仏にもすがる思いで、真剣に若い運動員を指揮、指導する。
ビラの渡し方がすごい。
「女は胸のところに、男は目の高さに差し出すこと!」
こうしたドブ板のビラまき、看板のたて等々のノウハウの上に、彼は何どもきわどい選挙を戦ってきて、議員8期を重ねたのである。
それは、まるで昔々、共産党員になるには「ビラ貼り3年、ガリ8年」と言われたような徒弟的修行の末の実践的能力である。
こうした自民党の「雑巾がけ選挙運動」に、対抗できるのは、残念ながら創価学会・公明党だけであろう。

それにしても、この小男のバイタリティは尋常ではない。
選挙期間中、法定の昼間の運動時間が過ぎ、街頭での運動が終了する。
と、札幌、小樽、旭川等々の大都市では、所構わずバー、クラブ、居酒屋に飛び込みで入り、挨拶、握手して名刺を配る。
それに釣られて若い女の子は、携帯で一緒の写真に収まる。

本来、選挙は民主主義のお祭りであり、候補者も、有権者もお祭りの構成員として参加し、踊り、歌って良いのである。
その典型はアメリカの大統領選挙であろう。
だが、戦後一貫して日本では、選挙のお祭り化を阻止する方向で、公選法が改正されてきた。
それは、かつての55年体制下では、その二大勢力だった自民党と社会党にとって、新興勢力である公明党の運動を抑えるためのものであった。自民、社会は、公明党と言う下から草の根勢力の伸長を防ぐことでは、共に一致していたのである。
個別訪問の禁止、立会い演説会の縮小化等々、選挙運動はどんどんとヒートアップしないようにされてきた。

鈴木宗男が期間中締めている蛇革のベルトの趣味の悪さ、ものの食べ方や話し方の下品さ、相手を攻撃する時の言説のえげつなさ、しかし仲間内への気配りの細やかさや指示の細かさなど、また時として見せる愛嬌など、日本の零細企業の経営者と同じ資質である。

良く、政治家と選挙民が乖離しているとマスコミは言う。
そんなことは全くない、どんな選挙でも、その当選者は有権者を確実に反映している。
だが、それが有権者の良いところか悪いところかは、別問題だが。
鈴木宗男の良さと悪さ、それはまさに戦後日本の我々の一つの象徴であることがよくわかるドキュメンタリーである。
UPLINK FACTORYで完成試写
今後、全国で上映される予定。

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