『無法松の一生』の勝新が素晴らしかったので、続いて『狐がくれた赤ん坊』も見る。
言うまでもなく、戦後すぐのチャンバラ禁止時代に阪東妻三郎が主演した作品で、横浜大勝館で見たが、フィルムの状態がひどかった記憶しかない。
1971年、大映の倒産直前の映画で、ダイニチ映配の配給である。
大井川の川越人夫の勝新太郎の寅八は、乱暴者で、馬方たちと喧嘩ばかりしているが、本当は無類のお人好し。
馬方の中谷一郎によれば、馬方が一番上で、篭かきが次、一年中裸で褌姿の川越人夫は最低の人間なのだそうだ。
こういう下層な人間の間にも差別や偏見を作るのが、徳川政権の巧妙なところで、こうした微妙な差別意識は今でも日本に残っている。
ある夜、森の中で虎八は捨てられた赤ん坊善太を拾い、初めは嫌がっていたが、次第に愛情が生まれてくる。
だが、7歳のとき、ある藩の重役の美川陽一郎が現れ、善太は殿様のご落胤であり、正妻の子が急死したので、お城に戻りお世継ぎにしたい言う。
もちろん、、冗談じゃないと反発する寅八だが、善太の前途を考え、彼を美川に渡すことになる。
最後、大井川を殿様仕立ての越が渡ってゆく。
それを多くの見送る連中とは離れて、じっと川の草原から見送る寅八がいた。
このシーンは、この時の助監督だった現代風俗研究会の辻光明さんの記事によれば、前作のラストとは違うのだそうだ。
丸根賛太郎監督作品では、阪妻が善太を肩に担ぎ、「下々の者にも良いことをしてください」と言うのだそうだが、明らかに当時の世相である。
勝新がジッと善太を見送る方が、彼の心情をよく表現していると思う。
さすが三隅研次であるが、大谷直子がとても色っぽくて素晴らしい。
大谷直子は、勝新お気に入りの女優だったようで、増村保造の『やくざ絶唱』では、父親の違う兄妹の近親相姦的愛憎を上手く演じている。
神保町シアター