昭和16年10月、太平洋戦争の直前に公開された鉄道連隊での新兵を一人前の機関手に訓練してゆく物語で、明らかに戦意高揚映画である。
戦意高揚映画などという言い方はふさわしくない、戦争体制推進映画とでもいうべき異常な精神的高揚性がある。
主人公の兵隊は藤田進、彼を教える老機関手は、丸山定夫、彼には3人の娘がいて、原節子、若原春江、三谷幸子である。
この映画の監督は熊谷久虎で、言うまでもなく原節子の義兄である。
鉄道連隊とは、中国等で、鉄道の敷設、修理等を行う陸軍の連隊で、千葉県にあった。
タイトルで、2台のC58が並行して疾走してくるシーンがあり、作品の中程、藤田進と中村彰が共に機関車を操縦して速さを競うシーンで再現される。
しばらく併走するので、映画のために作ったものかと思うと、これは総武線と成田線が分かれていくところで、映画でもすぐに左右に分かれてゆく。
ともかくこの作品の精神性、藤田進を叱咤激励する丸山定夫、また次第に目尻を決していく藤田進、およそ尋常ではない意思の強さを見せる。
また、訓練中の藤田の表情に重ねられる銃声や打撃音等の戦場の現実音が、映像の緊張を高めていく。
そして、最後の藤田らが出征してゆくシーンの大動員でダイナミックな映像の展開。
今日の「首領様のお国」のマス・ゲームのような大動員に酔いしれる群衆の表情。
日本にもかつてはあったアジア的な大動員による一大ページェントによる国民の興奮など、現在の首領様のお国の異常さを私は笑えない。
また、丸山定夫の演技が笑いをそそるが、その喜劇的演技はエノケンを思わせる。丸山は、エノケン劇団にいたこともあり、影響を受けているはずだ。
日本映画史上で、最高の鉄道映画は、この東宝の劇映画『指導物語』と岩波映画の土本典昭監督の記録映画『ある期間助手』だと思う。
この『指導物語』の撮影監督の宮島義勇と、『ある機関助手』監督の土本は、共に日本共産党員だったことは、極めて興味深いことである。
横浜市中央図書館AVコーナー