ラピュタで古川ロッパ監督の『陽気な天国』の次に見た作品で、西河克己監督作品としては、私が見た中では最も良い映画だった。
彼のインタビュー本では、ただ「風俗映画です」とのみ言っているが、この程度の作品はできるという自信なのだろうか。
話は、大坂志郎・山根寿子夫妻に、北原三枝、芦川いづみ、清水まゆみの3姉妹がいて、長女北原の岡田真澄の結婚式から始まる。
会場の階段で、上品な老婦人相馬幸子が倒れる。二女芦川と婚約している、生花八田流の小高雄二の母親で、家元なのである。
この生花が前衛的で、勅使河原蒼風を思わせるが、その展示会場で、知的障害の子供が、作品を傷つけてしまい、そこで障害児施設の職員葉山良二と芦川は知りあう。
小高は、やり手でだが商売気のみで、芦川は小高に不純なものを感じ、その反対に知的障害児教育に献身する葉山の純粋さに次第にひかれてゆく。
小高は、新婚旅行を兼ね、生花のアメリカ興行ための旅行に行こうとし、葉山は施設の児童の父親で、議員の深見泰三と対立したことからブラジルに行くことにする。
羽田空港に行くか、横浜港に行くかの岐路で、芦川は横浜への道をタクシーの運転手に告げ、大桟橋に着く。
その時は、すでに船は岸壁からはるか沖に出ていた。
と、柱の陰から葉山が姿を現す。
「あなたがいなくては、私はブラジルに行く気がなかったのです」
この芦川いづみの純粋な美しさに涙しない者は、人間じゃない。
三女の清水まゆみの使い方が演劇的で面白いが、映画のとおり、この時期芦川と葉山は公私ともの仲だったが、後に別れる。
一方、清水と小高は無事結婚しているのは喜ばしいことである。
原作は川端康成で、脚本は矢代静一、山内亮一、西河克己となっているが、川端は書いていなくて、矢代が代作したのだろう。川端の通俗小説では、梶山季之も代作しているのもあるそうだ。
山根寿子と、葉山の父親であり、日本人起源蒙古説を唱えたために日本を追われた人類学者芦田伸介は恋仲だったが、実利を求めて大坂志郎と結婚した脇筋もあり、この夫婦の微妙な関係の描き方もさすがに松竹大船出身の監督である。
人間の純粋性が問題となっているなど、いかにも矢代静一らしい脚本であり、少し前に、矢代は八千草薫との仲を裂かれているので、それが反映しているのかもしれない。
タイトルとエンドにマヒナ・スターズの主題歌が流れるのは、『東京の人』の主題歌のヒットによるものだろう。
阿佐ヶ谷ラピュタ