『魚河岸の旋風娘』

この程度の映画だろうと思っていたら、やはりその水準の作品だった。

脚本は富田義朗で、この人はかなり良いシナリオを書く人だったが、テレビを含め多作なので忙しく丁寧に書けなかったのだろう。

要は、弘田三枝子と仲宗根美樹という人気若手女性歌手が出ていて、さらに牧紀子と勝呂誉、津川雅彦、杉浦直樹らのスター、それに伴淳三郎、柳家金語桜、八波むと志らのコメディアン、浦辺久米子や千秋実ら脇役で固めれば観客は来るということだろう。

弘田三枝子入社第一回作品で、彼女は築地の魚屋伴淳三郎の家の二女で高校生、長女は牧紀子で、下町の洋品店に勤めていて、千秋の息子勝呂誉と愛し合っている。

だが、同じ魚屋の千秋と伴淳は犬猿の仲で、牧と勝呂は、「ロメオとジュリエット」にあたる。

しかし、いくらなんでも牧紀子と弘田三枝子が実の姉妹と言うのは、あんまりではないだろうか、松竹一の美女の牧紀子と、とても美人とは言えない整形前の弘田を姉妹とするのは無理がある。

              

       映画『タッチ旅行』から岩本多代、弘田三枝子、牧紀子

弘田が後にダイエットをし、さらに美容整形をして変身して大変な話題になったが、それはこの映画での牧紀子との共演が弘田のトラウマになっていたことによるのではないかとさえ思った。

話のつじつまが合っていないようなところもあるが、最後は予定調和的に勝呂と弘田は結婚式を挙げ、伴淳と千秋も和解する。

劇中にヨガのことが出てきて、本物のインドの行者が演じるが、なぜいきなり出てくるのか不思議だった。

監督の堀内直真は、松竹大船の娯楽映画専門で、これと言う作品はないが、作家小林久三によれば、堀内は結構屈折した心を抱えていたそうだ。

堀内と同じ1952年に監督デビューしたのは、この時良心的大作の『人間の条件』を作っていた小林正樹で、小林は『息子の青春』の清新さを評価されたが、『父帰る』の堀内は古臭いとされ、このデビューの評価がずっと二人に付いてきたというのだ。

だが、自分たちのような娯楽映画作家こそが、会社を支えていることが、彼の誇りだったと思う。

築地の周辺で木場も出てくるが、今の有楽町線の新木場ではなく、現在は東西線の木場駅付近にあった木場である。

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