『瞼の母』

多分、3回目くらいだが、やはり見ると泣けてしまう。

中村錦之助も、良い役者なので、勝新太郎などと同様に相手役が良いと、演技が一層に光る。

                                                

ここでは、まず女優が良い、夏川静江、浪花千栄子、沢村貞子に木暮実千代、そして現役最長老女優の赤木春恵も、木暮の店の女中で出ている。また、当時の東映で唯一の娘役だった大川恵子と中原ひとみも、さらに河原崎長一郎も大川恵子の婿役で出ている。

また、脇の男優も良い、中村錦之助と松方弘樹の二人を追いかけてくる、笹川繁蔵の子分の阿部九州男、浅草の親分の明石潮。

私は特にこの明石潮が大好きなのだが、この人は関東大震災の前の上山草人の近代劇協会にいたという、非常に古い役者なのである。

また、盲目の芸人の浪花千栄子から金を誤魔化そうとする遊び人の星十郎、中村錦之助らを貧乏浪人の山形勲から聞きこむ小悪党の原健策。

彼の娘は、石田純一の元妻の松原千明であり、タレントのすみれのお祖父さんになるわけだ。

こうした小悪党が、白や赤のフンドシをやたらにひらひらさせるのも実に良い。これは間違いなく加藤泰の演出である。

この中村錦之助の芝居を見ると、やはり「演技は台詞だ」ということがよく分かる。

フィルムセンター

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コメント

  1. КРАСНАЯ СОСНА より:

    「瞼の母」は2005,2016年と同じタイトルで記事を2度も書いていらっしゃるので、この作品がよほど気に入られたのでしょう。

    加藤泰監督は一般的に時代劇よりも任侠映画での評価が高く(松竹作品や晩年作品はつまらないですね)、小生も長らく「緋牡丹博徒 お竜参上」を加藤の最高作だと信じてきましたが、最近この「瞼の母」を見直す機会があって、この思い込みは根底的から崩れ去りました。

    神品「瞼の母」に比べれば、「お竜参上」や誰もが認める「三代目襲名」など、学芸会並みのどうということのない凡作にすぎない、と思うほどになりました。

    完成度からいえば、「瞼の母」は日本映画時代劇の二つとない「極め付き」最良作と断言していいでしょう。

    中村錦之助と木暮実千代は魂を揺さぶる演技(芸)で観客を酔わせてくれた。

    寒々とした日本間(襖が半開きになり、奥の間には金屏風にひな飾り)で、錦之助がとうとうと自分の胸の内を木暮に語る場面は、日本映画屈指の名場面でしょう。

    この二人の至芸は勿論だが、それ以上に「さすらい」様がご指摘のように、脇役がすべて優れていますね。

    日本映画黄金期にはこのような豊かで味わい深い名脇役たちが、使いきれないほど沢山いたという見本のような作品です。

    小生は、中でも「星十郎」と「原健策」を挙げます。

    盲目の門付け(浪花千栄子)の三味線に合わせ、手踊りしながら「ちょんがれ節」や「都々逸」を興じる星十郎の芸はまさに神がかり的迫技、何度見ても「唸って」しまいます。

    今思うと、いぶし銀の星十郎とお茶目な堺俊二が、どれほど東映チャンバラ映画に花を添え、盛り上げてくれたか。

    原健策は悪役ランクでいえば、悪家老(進藤英太郎や山形勲)に仕える悪役人あたりの役が多かったが、ここでは珍しく町人の小悪党を演じている。

    ゆすりのシーンで、最初は鼻毛を読みながら下手(したて)に出て、相手が承知しないと突然凄み、居直る変わり身のうまさには舌を巻いた。

    斬新で現代的タイトル(スタッフ・キャスト表記)に主題曲らしき歌が流れます。

    多くの演歌歌手が歌っている「瞼の母」のバージョンとはまったく異なって、「♪ いつも変わらず母のおもかげ~」という出だしで始まる青春愛唱歌タッチです。

    恐らく、音楽担当の木下忠司の作曲でしょうが、歌っている女性歌手が誰なのか、この歌の題名は何んなのかはどこにも載っていません。

    小生もインターネットなどで調べましたが、まったく不明です。
    もし「さすらい」様がご存じなら教えてください。

  2. 要は、相手役、悪役が良いと主役も引き立つということでしょう。主役だけでは芝居は成り立ちません。

    女性歌手は残念ながら私もわかりません。東映京都の大部屋女優あたりではないでしょうか。高倉健の『網走番外地』の作詞者も、東映東京の大部屋役者だったと思います。