「この世に雑草はない」(『ギアナの伝言』)

「この世に雑草という草はないんだよ」小岩のコミュニュティー・ホールで、ブラジル在住の岡村淳監督のビデオ作品『ギニアの伝言』を見て、すぐに思い出したのが、この昭和天皇の言葉である。

ブラジル在住の92歳の植物学者・橋本吾郎氏が、ギニアのテーブル・マウンテンに研究の旅に行き、そこに岡村氏らが同行する。

テーブル・マウンテンは、地球上最も古い地域、数十億年前のジュラ紀の植物相が保存されており、コナン・ドイルの小説『失われた世界』の舞台である。テレビの紀行番組でも「地球最後の秘境」として紹介されているようだ。
岡村氏たちのギニア行きも、普通の「旅ビデオ」であり、特にドラマや発見があるわけではない。
そもそも大変失礼だが、橋本吾郎氏も世間的に言えば、特に学会で発表されるような大業績をあげた方ではないようだ。
だが、橋本氏には感動する。
足が痛いと言って動かなかった橋本さんが、フィールドで珍しい植物を見つけると、さっと走りよる。
とうてい92歳とは思えない。
我々から見ればただの雑草が、彼により個々の種だと同定される。
大げさに言えば、この世の中のすべてを解き明かしていく作業のようにさえ見える。

フェリーニの映画『道』の中で、ザンパーノに撲殺されてしまう道化は、ジェルソミーナに言う。
「この世のすべてには意味がある。石ころだって役に立つ。何に立つかは分からないけど」
カソリックでは、この世のすべては、神が創造したもので、無意味な存在はありえず、すべてには意味があることになる。
本当かどうかは、私にも不明だが、すべてに意味があるという考えは、我々無名の存在にとっては救いである。

ビデオの最後、一行がヘリから降りたテーブル・マウンテン「クケナン・テプイ」は、真っ黒な賽の河原だった。
「地球が生まれたときは、このような世界だったのか」
大きな植物はなく、苔や食虫植物など小さなものばかりで、生き物がほとんど存在しない世界なのだ。
それに比し、わずか数キロ下は、緑に満ちた熱帯である。
数十億年を経て、地球は緑豊かな世界になってきたわけだ。
だが、またあのような死の世界に戻らないと誰が言えるのか。
声高には何も言わないが、静かに呼びかけてくる作品だった。

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