台風接近の中、宝町のフィルム・センターで佐伯清監督の『沓掛時次郎』を見る。
昭和29年に制作再開した日活の最初の作品の1本。
新国劇総出演で、主演の時次郎は島田章吾、時次郎が斬ってしまう六つ田の三蔵が辰巳柳太郎、その妻で次第に時次郎に引かれていくのが、水戸光子。
長谷川伸原作のこの劇は、サイレント時代から多数制作されており、1960年代にも東映で中村錦乃助と池内淳子、監督加藤泰で名作『遊侠一匹』が作られている。
佐伯は、伊丹万作の弟子で、喜劇から抒情的なものまで多数の作品があり、後に東映でヤクザ映画の一つ『昭和残侠伝』を始めて、大ヒットにする。
ここでも、本来恋仲になるはずのない夫の敵との恋という難しい関係を丁寧に表現している。
音楽が日本の現代音楽の代表的作曲家の一人の清瀬保二で、日本的な諧調を生かした旋律が良い。清瀬は、武満徹の先生であり、どこか似通っている。
1960年代に朝日放送のテレビで『てなもんや三度傘』の主演藤田まことの名が、あんかけの時次郎になっていたのは、勿論この沓掛時次郎のもじりである。