出かける前の時間、録画しておいた木下恵介の『今年の恋』を見る。
昭和36年の松竹の正月映画である。
長部日出雄の木下恵介の本でも評価されているが、大変な傑作喜劇だった。
高校生の田村正和と石川竜二(という男らしいが他で見たことがない)が、高校の同級生で仲良し。
上級生にカツ上げされて、対抗するためバスケット部をやめボクシング部に入るが、成績は落ちる一方。
双方の兄吉田輝男と姉の岡田茉莉子が学校に呼ばれるが、教師が三木のり平で笑える。
吉田輝男は、新東宝がつぶれたので、松竹入社第1作目。
吉田・田村の家は、横浜で父の野々村潔は、商事会社の重役で妻を亡くし、ばあやの東山千栄子が男3人の面倒をみている。
東山が口煩いのが笑える。この人は、『桜の園』のようなおっとりとした上流婦人が持役で、特に上手いとは思っていなかったが、台詞のタイミングが実に上手い。
一方、岡田・石川の家は、銀座の小料理屋で、三遊亭円遊と浪花千栄子の夫婦。
この野々村、東山、さらに円遊、浪花の脇役が皆上手いので、台詞のやり取りが爆笑を誘う。
しかも、インテリの野々村の家は東山と新劇の俳優、水商売の岡田の方は、落語の三遊亭円遊の他、浪花千栄子、さらに女中に若水ヤエ子と言う喜劇人を配置している見事なキャスティング。
要は、「吉田と岡田はいかにして結ばれるか」だが、二人は喧嘩ばかりしていてなかなか上手く行かない。
野々村の付き合っている京都の女性が高森和子と、いつものとおり木下の女優の趣味はきわめて上品。
岡田の料理屋の仲居も誰かは分からなかったが、きれいな人である。
最後、吉田、岡田は、田村、石川らと共に京都に行き、大晦日を知恩院で除夜の鐘を衝いて迎える。
まだ、「今年こそはいい事がある」と松竹大船も思っていた時代である。
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