見ようと思いつついろいろと用があって行けなかったのだが、一昨日にやっと行く。平日の昼間だが、ほぼ満員で、内野聖陽の人気が良くわかる。
お岩は秋山菜津子で、新劇系でやるとすれば、多分一番の実力女優だろうが、ニンは違うと思うが。
話は、ほぼ原作通りで、3時間に入るように短縮した程度の脚色のようだ。
やはり鶴屋南北はすごくて、非常に面白い。江戸末期近く、貧乏な庶民の姿が抉り出されている。
歌舞伎狂言の常で、民谷伊右衛門は、播州赤穂の浪人だが、ここでは太平記の世界に替えられている『仮名手本忠臣蔵』によって、塩谷家の家臣で、盗まれた名刀を取り戻して、討ち入りの仲間に加えて貰うのが課題になっている。
だが、伊右衛門は、そのような主命など、もう度でも良くなっていて、貧乏生活にも飽き、怠惰に生きている。
また、按摩の宅悦、奉公人の小仏小平らの生態も面白いが、これはあまり聞いたことのない役者だったので、際立たなかった。
宅悦で有名なのは、俳優座の三島雅夫で、これは今でも豊田四郎の映画『四谷怪談』で見ることができる。
ここでは、伊右衛門が仲代達矢で、小平が中村勘三郎という好配役で非常に面白い。
伊右衛門を見染めて恋煩いになった伊藤家の娘のお梅の望を叶えてあげようと祖父喜衛門・小野武彦が、血の道の薬と偽って伊右衛門に毒薬をお岩に飲ませるように仕向け、岩が飲んで顔がケロイドになる。
そして、髪を櫛で梳かすと、ごっそりと髪が抜ける髪梳きの場面、流れるのがピアノ曲の『乙女の祈り』
ここは、鈴木忠志が、よくちあきなおみの『さだめ川』を使うのと同じ方法だが、私としてはいっそアグネス・チャンの曲でも聞きたかった場面である。
そして、色恋に血迷った伊右衛門は、お梅、喜衛門、小平らを次々と殺してしまい、身を隠す。
原作にある夢のシーンや蛇山庵室もあり、その意味では原作に非常に忠実である。
最後は、伊右衛門と取り方の大立回り。ここでも『乙女の祈り』が流れる。
結局、この劇で良かったところは、南北の書いた人物設定、髪梳きから戸板返し、立ち回りとすべて歌舞伎やその後の歌舞伎系列の新国劇などのものと言うことになる。
これでは新国立劇場の、新はどこにあるの、と言いいたくなるだろうが、私はこれで良いと思った。
過去のものであろうが、優れたものは、われわれの遺産として継承すべきだからである。
秋山菜津子以外の、お梅などの女優は、すべて男で、お梅は有薗吉記で大いに笑えた。
佐藤与茂七は、平岳大で、平幹二郎も俳優座の『東海道四谷怪談』では、同じ役を演じたはずだが、本当に平幹二郎によく似ていた。
親子なのだから当然だが。
新国立劇場